はじめに

自身のキャリアを考える中で、「このまま労働者のままか、それとも経営側になれるのか」といった“もやもや”を抱くこともあるでしょう。

リクルート全社マネジャーMVPを2度受賞した井上功 氏の著書『CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・編集して労使間の“もやもや”を解消する方法を紹介します。


会社をつくり、経営者になる

経営者との対話を経て経営のダイナミズムと大変さが腹落ちしたところで、改めて自問自答します。経営者になるか否か? 次のステップがリアル労使間越境です。

疑似的でなく、実際に労使間の越境をしてみましょう。えっ! そんな簡単に経営者になれるの? という方も多いと思います。では、具体的に会社を設立する流れを見ていきます。

会社には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、LLPの5種類があります。出資形態や出資者の責任に従って分類されています。ここでは、最も一般的な株式会社について考えてみます。

株式会社を設立することはそう難しくありません。発起人を1名以上決め、会社名・事業目的などを決め、意志決定の仕組みを作り、印鑑証明書を準備し、株式払込口座を準備し、法人印を作成し、定款を作成・認証し、株式発行事項を決定し、株式を払い込み、取締役を選任し、資本金計上証明書を確認できれば、登記が成立し、株式会社ができます。

20〜30万円程度の手続き等に必要な費用がかかりますが、自分が発起人であれば、自身が使用者・経営者となり、労使間越境することになります。

会社設立のポイントは、その目的です。何のための会社なのか? 顧客は誰で、どのような価値(製品・サービス)を、どのように提供していくのか等が明確になっていなければなりません。 それらを記載するのが定款です。そこには事業目的や活動内容、住所などの基本情報を記載します。

実際には、就業規則等で労働者の会社設立を認めていない企業もあります。とはいえ、副業・兼業規定が緩和されている流れの中で、皆さんの周りにも会社員でありながら会社をつくって活動している人はいると思います。なぜ会社をつくったのか? 目的は何か? 目標は? 経営者としての活動でよかったことは? 逆に大変なことはあるか? といったことを事細かく訊くと、労使間越境の手触り感が見えてくると思います。

また、人事部に副業・兼業の実際や事例等を詳しくヒアリングするのもいいかもしれません。会社に所属しながらも、会社をもつことができれば、労使間越境を体現することになります。合目的的な会社を設立することができれば、そこでの事業活動自体が、今の仕事に多くの好影響を与えることになると思います。労働者として仕事をしながら、経営者になることができるのです。

日本には360万社以上の企業があるといわれています(出典:総務省経済センサス活動調査2021)。経営者はひとりだけではありませんので、数百万人の使用者・経営者がいると思われます。いっぽう労働力人口は約6900万人です。(出典:労働政策研究・研修機構2021年)仮に日本の労働者が全員会社を設立したらどうなるでしょうか? 6900万社の会社が生まれ、日本は企業大国になります。もちろん、それだけの数の会社の事業を受け入れる市場はないでしょうから、現実的ではありませんが、なんだかワクワクします。労働者が経営者としての見方・考え方を手に入れることは非常に有意義です。

僕の周りでは、ビジネス・パーソンをしながら副業として会社を経営している人が大勢います。今の仕事と競業するビジネスは基本的にはダメなので、全く関係ない領域で起業している人が多い。それは、新結合にとってはうってつけです。できるだけ遠くに跳んで、部分ではなく経営全般を、経営者として考え実行していく。それは間違いなく経営の血肉を得ることになりますし、次なるキャリア開発の契機になります。そして、彼らの最大の共通項は、〝好き〞で会社をつくって経営している、ということです。〝好き〞を副業で推進するうちに、副業が本業になった人も少なくありません。彼らと話をしていると、とにかく楽しそう。〝好き〞は大いなるエネルギーなのです。

今ある会社を買うことで、短期間で経営者になる

経営者になりたいけど、ゼロから立ち上げるのは色々と大変そう。そんな人には、会社を買う選択肢もあります。

会社を買うことで経営者になれます。会社は株主の所有物であり、総発行株式の3分の2以上を保有することができれば、会社は自分のものになります。労使間越境が実現します。

個人M&Aです。でもどうやって会社を買うか? ここでは具体的に会社を買って経営者になる大まかな流れをお伝えします。

売りにだされている会社を探す

まず、売りにだされている会社を探します。おそらくこの瞬間にも販売されている会社は、非常に多いはずです。会社は売られているのです。

買うことができる会社を探す方法は色々ありますが、一番手軽なのはネットの活用です。「会社を買う」とか「個人M&A」などで検索すると、売りに出されている会社のリストをごく簡単に見ることができます。

個人で会社を買う場合には、億単位の予算を準備することは現実的ではありません。

小さな会社の場合には、200〜300万円程度で売りに出されています。もちろん、売上や利益、保有資産によっては数千万円の値段がついている会社もあります。

丁寧に案件を探し比較検討するといいでしょう。なお、ネット上のM&Aマッチングサイトでは、売買交渉・手続き、売買金額の授受なども、ネット上で済ませることが可能です。

ちなみに、経済産業省と商工会議所が運営している公的な「事業引継ぎ募集」もあります。個人でも、この「事業引継ぎ募集」を利用して、会社を買うことができます。これは、中小企業経営者の高齢化や後継者不足により、事業承継(事業を後継者に引き継ぐこと)が困難になっている経営者を対象とした、事業を第三者に引き継ぐための支援の仕組みです。全国47都道府県に「事業引継ぎ支援センター」が開設されています。相談をしてみるのもいいかもしれません。

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