はじめに
給与としても受け取れる前払い退職金との選択
確定拠出年金は、老後の資産形成としては非常に優れた制度ですが、60歳まで何があっても引き出せないという点をデメリットと感じる方もいます。特に会社の制度の場合、転職もあったりすると、長くその制度のメリットを享受できないことをデメリットとし加入を希望しない方もいたりします。
そういう場合に配慮したのが、前払い退職金と呼ばれる形です。前払い退職金とは、従来の給与と同じ扱いで掛金を受け取るという意味なので、掛金に対しては税金も引かれ、社会保険料も差し引かれます。税率は所得により変動しますが、社会保険料はおよそ15%なので、少なくとも2割程度は源泉され、残りを「前払い退職金」として受け取ることになります。
前払い退職金を選ばなければ、掛金は全額確定拠出年金の掛金として受け取ります。こちらは前述の基本形と同様ですから、掛金から税金も社会保険料も引かれることなく、全額が老後資金として積立に回せます。
会社によっては、前払い退職金か確定拠出年金の掛金の二者選択とするところもありますが、同時にどちらも選び、割合を選択できるところもあります。例えば、前払い退職金と確定拠出年金を3:1のような形です。
また年に1回は選択を見直しできるとする会社が多く、その場合でもいったん選んだ確定拠出年金の掛金をゼロとして、前払い退職金を選ぶことはできないと制約を設けている会社が普通です。逆に前払い退職金を選んでいたけれど、それをゼロとして全額確定拠出年金の掛金とすることは自由にできるとしているのが一般的です。
前払い退職金も、その必要性を感じる方であれば、選択肢としてそれなりに価値があるものと考えますが、残念ながらそこまで特徴を理解して選んでいる方ばかりではないようです。ただなんとなく今使えるお金として掛金を受け取ってしまった方がいいと、安易に考えて選んでいるのであれば、今一度精査した方がよいでしょう。老後資金作りは多くの方にとって必須であるため、その場合は確定拠出年金の掛金を選択した方が、メリットは大きくなります。
自主性を重んじる給与減額方式での選択制
企業型とはいえ、必ずしも会社が掛金を拠出するばかりとは限りません。なかには従業員が自らの給与から財形貯蓄のように掛金を拠出する「給与減額方式による選択制」を採用している会社もあります。一般的には、法律上定められた企業型確定拠出年金の掛金拠出上限である月55,000円までを給与から出すことができるので、より積極的に運用をしたい方にとってはメリットがあります。
自由度が高く、自主性が重んじられるという点では評価が高い仕組みですが、一方で給与から切り離された掛金は税金だけでなく、社会保険料の算定からも外れるという点では社会保険関係者などから批判も受けています。
例えば、本来の給与が30万円の方が、自分の給与から掛金を5万円拠出すると課税対象となる給与は25万円、社会保険料の算定対象となる給与も25万円となります。すると社会保険料は給与額の約15%ですから、社会保険料の負担でいえば5万円の拠出はすなわち7,500円の社会保険料削減につながります(正しくは標準報酬月額によります)。これは会社から見ても同様です。
支払うべき社会保険料が減るということは、給付も減るということになります。特に注意が必要なのが、健康保険の傷病手当金です。病気やけがで働けなくなった際に給与の約3分の2が最大1年半にわたり保障されるのですが、掛金を拠出することにより、この手当が減額されるのです。
計算式としては月5万円の掛金を30で割り、2/3となりますから、1日あたり掛金を拠出しない場合と比較すると1,111円給付が減ります。最大548日の給付ですから、最大損失額は60万円を超えてしまいます。
同じような減少が出産手当金、育児休業給付金、老齢厚生年金や遺族厚生年金、失業手当などにも及ぶので、やはりここもしっかりと理解した上で掛金をどうするか決めるべきでしょう。
一般的には月55,000円を「枠」として設定し、1,000円刻みで給与から切り出し掛金とするというルールを設けている会社が多いようです。年に1回の変更を認めるのが一般的ですが、その場合でもいったん確定拠出年金の掛金拠出を選んだら、その掛金をゼロにすることは認めないと定めている会社が多いようです。
なお、会社が拠出する掛金の上限は上記どのパターンでも月55,000円が法律上定められた上限です。ただし会社が確定給付企業年金(DB)を導入している場合は、月27,500円と上限が減額されます。