はじめに
シリコンバレー銀行(SVB)破綻に端を発した金融システム不安は欧州に飛び火し、クレディスイスがスイスの大手銀行UBSによる救済合併を受けました。それでも市場の不安心理は収まらず、今度はドイツ銀行の経営不安が取り沙汰され同行の株価は急落しました。売り圧力はドイツ銀行だけにとどまらず、欧州の銀行株は軒並み大幅安となりました。
先週末のNY市場は欧州株安を受けて軟調に始まりましたが、終値では前日比プラスで引け、週明けの東京市場も3日ぶりに反発しましたが、上値の重い展開でした。株式市場では金融システム不安が拭い切れていない印象です。
市場はいったい、何を恐れているのでしょうか。それはおそらく市場自身もわからないのでしょう。「リスクは定義できればリスクでなくなる」という金言がありますが、まさに今の状況に当てはまる言葉です。「わからない」ということが、いちばん怖いことなのです。
SVB破綻の影響が局所的といえるワケ
先週土曜日に「マネックス証券お客様感謝デー」を開催しました。最後のパートはお客様からいただいた質問に回答するパネルディスカッションでした。そこでは、こんな質問がありました。「ブラックマンデー、ドットコムバブル崩壊、リーマンショックなど多くの〇〇ショックと金融危機がありました。今回のSVB破綻は過去のショック・危機とは違うのでしょうか」。
われわれパネリストは異口同音に、SVBやクレディスイスの特殊性に言及し、今回の破綻劇は極めて局所的なものであり、世界の金融システムに影響が及ぶものではないと述べました。
SVBはスタートアップ企業を顧客としており、同行の預金はスタートアップの資金調達に左右されます。これまでの金融引き締めでスタートアップの調達は鈍り、SVBの預金も流出超が続いていました。満期保有なら損失が実現化することのなかった債券の期中売却を迫られ資本が棄損することになりました。簡単にいえばALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント、資産と負債の総合管理のこと)が稚拙だったということに尽きますが、そもそもは「スタートアップのための銀行」というビジネスモデル自体に無理があったといえます。破綻したシグニチャー銀行も「暗号資産業界のための銀行」ですから同様です。特定の業界に依存した銀行というビジネスモデルの脆弱性が一気に表面化した結果が今回の破綻劇です。
クレディスイスの経営不安は、SVBの問題が発覚する以前からのことでした。過度な利益を追求した結果、リスクの高い投資銀行業務での失敗が相次ぎました。米国の投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの経営破綻や英国で破綻した金融会社グリーンシル・キャピタルなどに関連し、多額の損失を計上しました。ガバナンスの不祥事も相次ぎ、経営トップが頻繁に交代してきました。そうした経緯から半年前に経営再建策を発表するも富裕層の資金引き揚げが止まらず、株価は右肩下がりで推移してきました。こうなると、財務内容はまだ債務超過になっていなくても、「市場に殺される」のは時間の問題だったといえるでしょう。
ですから、破綻した米銀2行と救済合併されたクレディスイスは特殊なケースであり、金融システム全体が危機に陥ることはないというのが基本観です。「今回は違う」というわけです。