はじめに

残業代引き上げと働き方改革

時間外労働の割増率を中小企業にも適用するのは、長時間労働を是正する「働き方改革法」の制定によります。働き方改革は、働く若い人たちが減少し、人口構造が変化していることに加え、生産性の低迷を解消するために、労働制度を改革することが不可欠になってきたことが根底にあります。日本は欧米にくらべて労働時間が長く、過労死や心身障害といった健康被害が深刻になってきました。これは結果的に、企業の生産性の低下につながっています。しかも、高齢化や核家族化が進む中では、労働時間を減らして仕事と育児や介護を両立させる必要性も出てきました。

まずは、労働時間のルール※1について確認しておきましょう。法定労働時間は、週40時間、1日8時間が大原則です。残業させるときは「三六協定」と呼ばれる労働基準法36条の労使協定を結んで労働基準監督署に届ける必要があります。法定労働時間を超えた場合、1時間あたりの賃金に割増率を掛けた割増賃金の支払いが必要になります。

割増賃金の種類は、時間外労働、休日労働、深夜労働の3つです。時間外労働では、割増率は25%以上です。月の時間外労働が60時間を超えた時点から50%以上になります。これには週1日の法定休日の労働時間は含みませんが、土曜日などの法定外休日に働いた時間分は含まれます。改正によって、月の労働時間が60時間を超えた場合の割増率の猶予が中小企業でなくなるというわけです。

●法定労働時間を超えたときの時間外手当
 1時間あたりの賃金×時間外手当の割増率×残業時間

22時から5時までに行われる深夜労働に対しては、25%以上の割増率を加算します。1か月の残業が60時間を超えない場合でも、時間外手当の割増率25%以上と深夜労働の割増率25%以上を足した50%以上の割増率で計算することになります。

●法定労働時間を超え、かつ深夜の時間外手当
 1時間あたりの賃金×(時間外手当の割増率+深夜手当の割増率)×残業時間

1か月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対しては、60時間を超える労働時間の割増賃金に代えて、代替の有給休暇を与えることもできます。代替休暇は、労働者の休息の機会を与えることが目的です。休暇の付与の単位は、1日または半日とされています。制度の利用には、労使協定を結ぶ必要があり、代替休暇を取得するかどうかの判断は、労働者側にあります。

図表:筆者作成

さらに、働き方改革法では長時間労働に、罰則付きの上限が設けられています。時間外労働時間の限度を原則月45時間、年360時間と設定しています。特例として年720時間まで認めるものの回数など細かい規制があります。これまでは抜け道もあったため、法律によって長時間労働を是正することになりました。

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