はじめに

残念ながら所得控除のメリットはない

iDeCoと国民年金基金は、国民年金の上乗せの私的年金として創設され、いずれも掛金は全額所得控除として認められます。しかし、非居住者の場合は、残念ながら日本の所得控除の恩恵を受けることができません。なぜならば、税金は居住しているところで納めることが原則だからです。

吉川さんは今後、演奏会やオンラインでの演奏配信を行っていく予定です。将来的には世界各地での演奏会も行われるかと思いますが、当面はこれまでのつながりから日本での収入が中心となります。

仮に吉川さんが売上を日本円で日本の口座で受け取ったとしても、税金の申告については居住国で行うことになります。その結果、日本での収入がないことになるため、iDeCoや国民年金基金をしたところでそれらの控除による税の恩恵は受けられません。

実際、非居住者の税金関係はそれほど単純ではなく、居住地との租税条約がある場合はそれらを考慮する必要もあるのですが、まずは原則的なところでお話を進め、税金の詳細については、税務署などでの確認をお願いしました。

確かに日本に住む私たちが一般的にメリットと考える積立時の税制優遇はありませんが、将来に向けての資産形成という意味で考えれば、十分メリットがあると考えられます。iDeCoの運用で得られた利益は、ずっと非課税です。国民年金基金は、運用を自分で行わないので「非課税メリット」という表現にはなりませんが、実際掛金に利益が乗った分を将来の年金として受け取ります。

特にNISAは日本に居住していることが口座開設の条件になっているので、海外に住む方は利用できません。それであれば、iDeCoあるいは国民年金基金の利用は検討に値することだと考えます。

税金について付け加えると、日本に不動産を所有し賃貸収入がある場合は、日本で税の申告をします。その場合、納税管理人を立て海外居住者に代わりに確定申告をして納税してもらいます。

しかし、その場合でも非居住者には所得控除がほとんど認められていません。現実的に利用できるのは基礎控除くらいなもので、iDeCoの小規模企業共済等掛金控除も国民年金基金の社会保険料控除も利用できません。同様に国民年金の任意加入による保険料は、社会保険料控除が適用されますが、こちらも利用できません。

ちなみに社会保険料控除は、生計を一とする場合、本人以外の他の家族が代わりに負担をし、その人が社会保険料控除を受けることができます。今回のケースでは、国民年金の任意加入の保険料と国民年金基金の掛金は社会保険料控除の対象なのでそれにあたります。

吉川さんの渡航が留学であり、親御さんが生活費を仕送りしているという状況であれば、例えばお父様がそれらを負担し、ご自身の社会保険料控除とすることも可能です。しかし今回のケースでは、生計を一とするとは言えないので、やはり控除は受けられないでしょう。

日本に根っこを持つ

筆者は、吉川さんのように海外に拠点を持つお客様や、日本に住む外国人のお客様からのご相談をお受けすることがよくあります。才能あふれる方々なので、生活の場に国境はないのですが、時に「国」がその活動にブレーキをかけてしまうことがあるのは、注意が必要であると考えています。

税金に関しては国家間の約束事も異なりますし、社会保障も国によってずいぶん違います。特に高齢になった時、言葉や生活習慣の違いなどが大変になって自国に戻りたいという方も多く、その時に自分の国の制度にしっかり加入していることが、その後の生活の助けになるという事例も見てきました。

日本人であれば、その根っこの部分として、自国で利用できる制度は利用しておいた方が良いのではないかと考えます。

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