はじめに
コロナが落ち着いて経済が再稼働する一方で、国内では物価高が続いており、国外では米国のシリコンバレー銀行破綻から始まった金融不安や、終わりの見えないウクライナ戦争など不安要素が多く、依然として先行きの不透明感が漂っています。
4月には10年にわたり日銀総裁を務めていた黒田総裁が退任し、植田新体制となりました。金融政策の修正が行われるかに注目が集まる一方で、米国では秋頃から利下げフェーズに転換するのではないかとの予想もなされています。2023年に投資家がウォッチしておくべき情報をまとめていきます。
米国のインフレと利上げ
日本経済だけでなく世界経済に大きな影響を与えるのが米国における金融政策の変化ですが、変化を生じさせる要素の1つが米国の物価動向です。米国労働省が4月12日に発表した3月の消費者物価指数は前年同月比+5.0%となり、前月の同+6.0%から大幅に減速しました。品目別の内訳をみてみると、ガソリンは同-17.4%と大きく低下し、前月比でも-4.6%と3か月ぶりの低下となりました。食料品やサービス価格の伸びも鈍化しており、異例のペースで金利を引き上げてきた効果が徐々に表れつつあります。FRBが重視するコアPCE(個人消費支出)デフレ-ターも2月分の数字が前年同月比+4.6%と市場予想と前月実績を下回っています。
このように着実に利上げの影響は出ているものの、平時から見れば依然としてインフレ関連の指標は軒並み高い水準にあり、インフレ抑制を第一の目標に掲げるのであれば、まだ金融引き締めの手は緩められないといえるでしょう。一方でこれ以上の金融引き締めは景気をオーバーキルしてしまう懸念もあり、FRBは今後のかじ取りが非常に難しくなっています。
ちなみに、執筆時点における市場参加者のコンセンサスをみてみると、次回5月の会合で0.25%の利上げを行ってからは6月、7月と金利を据え置き、9月からは徐々に利下げフェーズに入るという観測が強くなっています。
日本の金融政策
次に気になるのは植田日銀新総裁による金融政策です。これまで黒田前日銀総裁は10年間にわたり異次元の金融緩和を継続してきました。4月8日の就任以降、植田総裁は基本的には黒田路線を踏襲する旨の発言をしていますが、一方でマイナス金利政策が銀行の収益環境を損ねる点や、イールドカーブコントロール(YCC)が資金調達における市場機能を損ねる点などを指摘しており、またETFの買い入れについても問題点が多いと指摘しています。
これらの発言内容から予測されるのは、就任後、初めて開催される金融政策決定会合では金融政策の修正を行わずに現状維持とするものの、早ければ6月頃にはYCCの変動幅拡大や解除など、何かしらの修正は行うのではないか、ということです。
仮に6月以降に徐々に金融政策を修正し、現状から比べて金融政策を引き締め方向に転換していくと、前述の通り、米国では秋頃から利下げフェーズに入っていくと見込まれていますから、日米両国間における金利差が縮小していくことを意味します。
為替は複数の要因によって変動していきますが、この数年は日米の長期金利差とドル円相場の推移に強い相関関係があり、それに基づけば秋以降に円高が進行することが予想されます。円高がプラスに作用する産業はありますが、昨年の円安局面のようなスピード感で円高が進行すれば、マクロ経済の観点からは日本経済に対してマイナスに作用する可能性が高いことには注意が必要です。