はじめに

デフレ脱却なるか?

そもそも金融政策の目標の1つに「物価の安定」がありますが、特に日銀は「2%の物価安定目標」を「持続的・安定的に実現すること」を掲げています。足元では日本国内における物価上昇率は2%を大きく上回っていますが、これをもって金融緩和を解除して引き締め方向に転換することは拙速であると考えた方がいいでしょう。今年の春闘では大企業を中心に例年以上の賃上げが行われており、来年以降も同様に賃金が上昇していくようであればいよいよ悲願のデフレ脱却が見えてくるということが私の認識です。

仮に目先の物価上昇率だけをみて早々に金融緩和を解除して引き締め方向に転換してしまえば、再び物価上昇率は鈍化してしまうでしょう。しかも、財政政策の方に目を向けてみると、防衛費増額の財源や少子化対策の財源を求めて所得税や社会保険料の引き上げなどが検討されており、このままいくと金融も財政も引き締めていくということになります。

日銀がいくら金融緩和を継続したところで、財政が増税に代表されるような引き締め策をとってしまえば、なかなかデフレを脱却できないというのはこれまでの日本経済が実証してきたわけですから、この点については政府側にしっかりと過去を反省した政策運営をしてもらいたいものです。

世界のパワーバランスの変化

主に日米の金融政策に注目すべく、米国のインフレ環境や植田総裁の発言などを確認してきましたが、今後の経済を考える上で最も重要なポイントは世界を俯瞰することで確認できる世界のパワーバランスの変化だと思います。このパワーバランスの変化は新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックとロシアによるウクライナ侵攻によって明確なものとなりました。

これまでは米国が「世界の警察」の役割を果たし、一種の一極支配を実現していましたが、米国国内で分断が生じることで他国のことに手が回らなくなる一方で、経済成長を遂げた中国がサウジアラビアとイランの国交回復の仲介をするなど、着実に中国の存在感を世界にアピールしています。また、ウクライナ侵攻に対する欧米諸国のロシアに対する経済制裁を目の当たりにした中国やグローバルサウスの各国は脱ドル化に舵を切り始めました。

この話は目先の株式市場や為替相場の先行きを予想するためには役に立たない観点かもしれませんが、世界経済の枠組みが大きく変わろうとしている潮流を把握することは重要だと思います。欧米諸国とその他の国で一種の冷戦的構造が構築されたり、脱ドル化が加速したりすることは当然ながら物価や企業業績にも影響を与えるからです。

このように、目先の話題を追いながらも、同時に長期的なスパンで経済を俯瞰する習慣を身につけましょう。

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