はじめに

米国に存在する3つの崖

米国では銀行破綻以外にも不安要素があります。1つ目は前述の相次ぐ銀行破綻を背景に、各銀行が貸出態度を厳格化しているということです。FRBが公表した銀行融資担当調査によると、すでに融資基準の厳しさは過去の景気後退局面とほぼ同じレベルに達しています。

2つ目はすでに報道でも知っている方は多いと思いますが、米国の債務上限問題です。これまでも米国の債務上限問題は何度も浮上しており、その都度何事もなく終わっているので、今回も同様の展開になると考える方が多いのですが、それでも投資家にとっては「今度こそ…」と不安になってしまうものです。

3つ目は米国のインフレ問題です。一時期に比べれば利上げの効果もあり、インフレ率は鈍化してきましたが、それでも通常時に比べれば依然として高い水準にあります。インフレ率と同等かそれ以上に賃金が上昇しない限り消費が落ち込むのは明白ですが、いまのところはそのような様子は確認されません。それは、コロナ禍において発生した強制貯蓄の存在によるものでした。コロナ対策で巨額の財政出動をしたものの、一方で消費者はロックダウンなどもあり消費にお金をまわさなかったため、強制的に貯蓄をさせられていたということです。ここ1年のインフレ局面ではその備えで対応ができたのですが、いよいよこの強制貯蓄も年末から来年にかけて底をつくと試算されており、そこまでにインフレが鎮静化していなければ、インフレがいままで以上に景気の下押し圧力となるのです。

FRBの難しい舵取り 

投資家にとって更に悩ましいのが、FRB自身も金融政策の舵取りに苦しんでいるということが挙げられます。FRBはデュアルマンデートといって、物価の安定と雇用の安定という2つの目標を持っています。これまでは労働市場が堅調だったため、インフレだけを見て金融政策を考えればよかったのですが、今後はそういう訳にもいかなくなるでしょう。

前述の通り、米国では各民間銀行が貸出態度を厳格化しているのですが、今後は更に厳格化されていくと考えます。過去のデータをみてみると、貸出態度が厳格化すると失業者数が増加するという相関関係が確認されており、その関係を今回にも当てはめるのであれば、今後は労働市場が悪化することが容易に想像できます。

そうなると、今後発表されるインフレ率が依然として高水準だったとしても、これまでのように「じゃあ利上げしよう」というようなシンプルな意思決定ができなくなってしまうのです。インフレを抑えるためには利上げすべきだけど、悪化する労働市場を横目に見てしまうと安易に利上げの判断はできない。しかし、利上げが不十分だとインフレが抑えられない、という板挟みの状態にFRBが追い込まれているわけです。

執筆時点では市場はすでに年内の利下げを織り込んでいますが、一方でFRBは一旦の利上げ停止を匂わせつつも、データ次第ではまだ利上げの余地はあるとしています。すでに市場との対話も出来ていない状態にあるのです。

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