はじめに
今回はフィデリティが毎年実施している人々の心理や金融行動に関するグローバル調査についてご紹介したいと思います 。ウェルビーイングの国際比較もわかる調査になっています。
調査結果を一言でいえば、「インフレがすべてを動かした」といったところでしょうか。日本では過去20年間デフレの時代が続き、私たちは物価が上がらない世界に慣れきっていました。ところがコロナ禍を契機に、2022年、突如としてインフレが始まり、私たちの生活は大きな影響を受けました。対抗措置として大企業では賃金の引上げが行われましたが、日本の労働者の7割が働く中小企業では、まだまだこの動きは広がっていません。
世界的にはインフレの影響はもっと深刻です。インフレによる生活水準の低下は、人々の心理・行動を玉突きのように動かしています。その様子を調査結果から見ていきましょう。
日本は一番悲観的な国から脱出
前回の調査で、日本は「世界で一番悲観的な人が多い国」でした。しかし、今回の調査では欧州各国で悲観派が急増しています(図表1)。その要因の第一はインフレ、次いで国際政治情勢の緊迫でした。日本でもインフレが急に進み、皆さんも値上げのニュースにうんざりしていると思いますが、欧州の実態はもっとひどいようです。
インフレが老後資金への不安を増大、退職時期を遅らせる人が増加
インフレが進行すると、これまで想定していたよりも多くの老後資金が必要となるだろう、と考える人が増え始めます。そのため、世界的に退職年齢を遅らせる人が増加しています(図表2)。
図表2を見る限り、日本は他と比べれば、退職時期を変更する人が少ないのは事実です。定年制度が社会に長く根付いてきたせいかもしれません。とはいえ、15%の人は退職時期を遅らせると回答しています。そして、その理由は図表3のとおり「思っていたほど老後資金がないことに気づいた」がトップです。前回は「働くことが好きだから」という理由が1位だったのですが、その座を譲っています。(図表3のカッコ内は前回調査の数値)
勤労世代は、物価上昇があっても賃金も上昇すれば購買力を維持できます。しかし、年金に頼るリタイア世代はそうはいきません。日本の公的年金ではマクロ経済スライドという仕組みが導入されており、物価上昇ほどには年金額は増えないようになっています。したがって、インフレが続くと購買力はだんだん落ちていってしまいます。今後もインフレが継続するようだと、日本でもリタイアする年齢を遅らせ長く働く人が増える可能性があると思います。