はじめに

取引先から圧力をかけられるケースも

小島:インボイス制度が導入される、だいたいの趣旨はおわかりになりましたか?

有野:なんで制度が始まるのか、っていう趣旨はわかりました。消費税が10%に上がったタイミングでやろうとしてたけど、消費税が浸透するまで先送りにしてくれてた。だけど、やっぱり税の取りこぼしを無くしたい、って事ですね。でも難しそうやし、「なんでやらないかんの?」っていう気持ちは、正直に言ってまだあります。みんなでほったらかしにしとったら、さらに先送りにならないですかね?

小島:率直にいうと、すべての事業者が「絶対にいますぐやらないとダメ!」というものではありません。業種や業態によって、事情も変わります。インボイスに対応せずにいたとしても、影響がほとんどないケースはあるでしょう。ただ、対応している事業者と対応していない事業者の間で、差が生まれる可能性も十分考えられるので、会社によっては「対応しておいたほうがいい」ということになると思います。

有野:差っていうのは、具体的にどんな差ですか?

小島:たとえば、会社員の経費の扱い。経費の計算では、レシートを経理に提出して、経理に経費として認められれば、自分の財布からの出費ではなくなるわけですよね。

有野:テレビ局員と食事に行ったら、今は領収書の裏に誰と行ったかも書かないといけないそうで、「有野とやったらお寿司もOKやねん」って言われました。「若手と寿司行って仕事に繋がるんですか? って言われたら、返す言葉ないもんな。居酒屋でいいか、ってなるねん、申し訳ないけど」って。食べる相手とお店のグレードで経費扱いしてくれない場合もある、って聞きましたよ。経理に経費で認められるって大事ですね。

小島:でも、インボイス制度が始まる2023年10月以降は、インボイス、つまり適格請求書を発行している事業者の領収書じゃないと、経費として認められなくなる可能性があります。

有野:えぇ~!? じゃあ、経費として認められるには、タレントのランクの前に、インボイスに対応してるお店じゃないとアカンってこと? ほな、経理としては誰と行ったかの前に、この店はインボイス対応してるかも見ないとアカンのか。ほな、経費で使ってる人らは経費扱いできる店の方に入るやん。「ここでいいか」って気軽にお店を使われへんようになるなぁ。

小島:あくまで「可能性」のお話しです。また、会社によっては、これまで通りの対応になるかもしれません。どのように対応するのか、会社によって判断が分かれると思います。

有野:そうなると、もしかしたら街の中華屋さんとかも、「冷やし中華始めました」の横に、「インボイス対応も始めました」って張り紙もしないと入ってもらわれへん!

小島:張り紙をするかはわかりませんが(笑) でも、たとえばお店を検索できるグルメサイトに、「インボイス対応」が新たに検索項目に加わったり、予約をするときに「そちらはインボイス対応店ですか?」などと質問したりするのが当たり前になるかもしれませんね。

有野:ということは、お店側からすると、宴会や接待で使うような経費のお客さんが多い店やと、インボイスに対応しておかんと、お客を確保するのが難しくなる可能性もある、ってことか。

小島:その可能性はあります。それに、仲卸などの業態では、インボイスに対応していないと「仕入税額控除」ができず、納税額の増加につながる会社が出てきます。つまり、即座に影響が出る会社と、そうではない会社が出てくるということです。

有野:周りの様子を見つつ、って感じか。

小島:ただ、フリーランスをはじめとした個人事業主なども、取引先から「インボイスに対応していないと取引しない」といった圧力がかかる可能性はありますね。もちろん、表立ってそのような言葉を使うことは考えづらいのですが、暗黙の了解を求められるケースは出てくるでしょう。実際、インボイス導入に関して取引先に不適切な圧力をかける企業が出ていることがニュースになっています。

有野:それが声優さんの会見のやつ、ってことか。インボイス入れてないと仕事は来ないし、入れたら収入は減るし……だから、個人事業主とか立場の弱い人にとって、影響が出るかもしれへんわけか。涙ながらに反対を訴える人がいるのもわかる気がします。

小島:さて、次回から実際にこれまでとどう変わるのか、具体的なお話しに入りましょう。

有野:さっきから先生が用意しはった資料の図解とかチラチラ見てんねんけど、全然わかりません(笑) 「ゲームセンターCX」で苦戦した『カイの冒険』より難しいかも。

小島:そのゲームの難易度はわかりませんが、できるだけ理解しやすいように頑張って解説します(笑)

次回(9月12日配信予定)は「インボイス制度の導入で何が変わるのか」について聞いていきます。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

小島孝子
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999 年早稲田大学社会科学部卒、2019 年青山学院大学会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010 年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん(令和5年度税制改正大綱対応版)』(税務研究会出版局)、『ちいさな会社とフリーランスの人のための どうする?消費税インボイス』(税務経理協会)、『3年後に必ず差が出る 20代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)など。

ライター:新井奈央

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