はじめに
米国の失業率は3.8%に。その理由とは?
実際、FRBのスタンスを変更させる要因はすくなくありません。FRBがタカ派でいるのは米国の景気、特に個人消費の強さが背景ですが、今後、消費も弱くなる可能性があります。現在、消費が強いのは政府の現金給付などで家計がまだ潤沢な現金を保有しているからという理由がありますが、そろそろ、それも尽きてくるころです。
その証拠が雇用統計に表れています。前回発表になった雇用統計では失業率が3.8%に跳ね上がりましたが、その理由は職探しをする人が労働市場に戻ってきたからだと言われています。労働参加率がコロナ後最高となる62.8%にまで高まったことからもそれはわかります。そして、職探しをするひとが増えた理由は、政府からもらった給付金が尽きて、働く必要が出てきたからだと考えられます。そうなると消費もこれまでの強さを維持できる保証はありません。さらに、ガソリン価格の上昇や学生ローンの返済再開は個人消費を押し下げる可能性があります。
失業率があと0.1%上がってしまうと…
労働市場を見ても、一時のひっ迫感は解消されています。悪化というほどではありませんが、徐々に失業率は高まるのではないでしょうか。前回が3.8%でした。仮に0.1%高まるとどうなるでしょうか。「失業率がたかだか0.1%上がったからって、どうってことはない」と思われるかもしれません。おそらく実態面としては、それほどの変化はないでしょう。
しかし、金融市場が受けるインパクトは、ある程度、大きなものになると思われます。というのも、失業率の3ヶ月移動平均が直近12ヶ月の最低から0.5%ポイント上昇すると景気後退に陥ったと判断するルールがあるからです。元FRBエコノミストのクローディア・サーム氏にちなむ「サーム・ルール」です。今年1月に失業率は最低の3.4%をつけました。仮に年内に3.9%に高まれば、「サーム・ルール」に照らすと景気後退ということになるのです。
そうなった場合、債券市場でも利回りは低下するでしょうし、FRBのスタンスも変化が生じるでしょう。
2024年末のFFレートの予想は5.1%と前回6月時点から0.5%も引き上げられたことで、市場は大きく動揺しましたが、そもそも2024年は「利下げ」という方向性は変わっていません。0.5%も引き上げられたことの示唆は、利下げ開始時が半年後ずれして年後半からとなったということですが、「遅かれ早かれ」の問題でしょう。「利下げ」という基本的な方向性が維持されているなら、いわゆる「パウエル・プット」が復活するということです。それが見えている以上、足元の売られ方は過剰反応だと思うのです。