はじめに
景気拡大が進むアメリカ
もうひとつ、次の2つのことが起こっているときは、リスク資産価格は上がりにくいということが示されています。それを示している2つが左側のチャートです。
左側のチャートに2本のラインがありますが、まずひとつは、下段のグレーのラインです。アメリカの政策金利を示しています。アメリカはもう22ヵ月間利上げをしています。過去最高が25ヵ月ですから、かなりの利上げが進んでいます。
そしてもうひとつは、紫で示しているアメリカの失業率です。直近の数字では4.2%まで下がってきています。網掛けをしている縦の柱は、アメリカが景気後退したときなのですが、一番右の水色のラインは、アメリカでリーマンショックがあった後に続く景気後退です。その直前は、失業率は4.4%までしか下がっていないんです。ですが今はもう4.2%まで下がってしまっているわけです。
右下のチャートを見ていただくと、1929年の世界大恐慌があったときからアメリカの景気拡大が過去何年続いてきたのかを示しています。
9月末時点で今の景気拡大は8.2年に及びます。今よりも景気拡大が続いたときは、8.8年のときと10年のときの2回しかありません。このことからも、現在の景気拡大は、かなりの後半戦に差し掛かっていることが考えられます。
景気拡大の後半、資産はどう動くのか
そして、アメリカの景気拡大がかなり後半戦に差し掛かっているときにリスク資産はどう動くのかを示したのが次のグラフです。
左側と右側にそれぞれ4本の柱がありますが、今、我々はどこにいるのかというと、両方の4本の柱でそれぞれ左から2番目です。
まず左側のグラフです。左から2番目、利上げしているときにどうなっているでしょうか。
左から2番目になるときに何が変わるかというと、グレーが小さくなります。グレーが何かというと、先進国の株式全体の過去のリターンをとっています。
これは何をしているかというと、アメリカの金融政策が(1)利上げ前の局面なのか、(2)利上げしている局面なのか、(3)利上げ後の据え置きの局面なのか、はたまた(4)利下げをしている局面なのか、という4つの局面に分けて、年率で先進国の株式がどれくらい上がっているのかを示しています。
そうするとわかるのは、利上げがあると利上げ前の(1)の局面に比べて先進国の株式はキャピタルゲインが小さくなることがわかります。
先ほど申し上げたように、利上げの局面はもちろん引き締めをしているので、FRBとしてはリスクテイクを抑制したいわけです。例えば利上げすることによって、企業の設備投資や家計の住宅投資を抑制したいということもありますが、その後の金融市場のリスクテイクも当然抑制したいわけですね。
ですから、当然引き締めをするタイミングでリスク資産価格は上がりにくくなるわけです。あるいは、その前の局面で上がりすぎるために、なかなか上がりにくくなるわけです。
そうした中では、値上り益になかなか期待できないので、インカム(配当)を中心に考えて、その中でキャピタルゲインが出ればラッキーくらいで考えていただきたいのです。配当はどの局面をみてもだいたい3%程度が揃っています。まずはこれを中心に据えていただくということです。
右側のチャートも同じことを示しています。先進国の株式のリターンをアメリカの景気が拡大をしているのか、後退をしているのか、それぞれの局面での前半なのか後半なのかをとっています。
今、我々がいる左から2番目の局面は、景気は拡大しているけれども後半の局面にきている、ということなんですね。後半の局面ということは、キャピタルゲインは6.7%と上がっていますが、上がりにくくなる局面なんです。
そうした中ではインカムゲインを中心に考えていただきたいんです。
アメリカの景気拡大はあと1年は続く
気になるのは、アメリカの景気拡大があとどれくらい続くのか、です。これは、最低1年は続くと私は考えています。ちょっと難しい話になりますが聞いてください。
ここには2つのラインがあります。グレーで示しているのがアメリカのISM製造業景況指数です。アメリカ製造業の景況感を占う指数ですね。横の線が50ポイントで、それを上回っていると自社の景気・業績が良いよ、と回答している人が、全体の半数以上を占めているということを表しています。今それが50を超えています。60.8なんです。過去でいうと高いところまできていますから、アメリカの景気は非常に良いと言えるんです。
もうひとつの青のラインは、アメリカの長短金利差です。アメリカの10年国債利回りから2年国債利回りを引いたものです。水色の縦の柱は、アメリカの過去の景気後退を示しています。
過去重要な経験則があります。アメリカが景気後退にいくときには、必ずこのグレーのISM製造業景況指数が50を割り込んでいるんです。割り込まない限り、景気後退にいっていません。
青のライン長短金利差は、いま0.85%ありますけれども、アメリカが過去、景気後退にいくときには、これが必ずマイナスに下がっています。例えば、2008年のリーマンショックにいく前を見ていただくと、最初にこの長短金利差がマイナスになります。マイナスになってから1年後くらいに景気後退になっています。このグレーのISM製造景況指数の2007年初頭に50を割り込みます。そうすると過去景気後退になったんですね。
もちろん95年とか97年を見ていただくと、一旦マイナスになっても、50割れしても戻ってくるときもあります。ですから、もしISM製造業景況指数が今度50割れをするときに景気の後退にいくとすれば、あとどれくらいの期間かかるのかですが、過去この60まで上がったISM製造業景況指数が50割れするには、少なくとも1年の期間を要してます。50割れしてから数ヶ月後に景気後退にいってます。
ここから言いたいのは、まだ景気後退まで最低1年くらいありますから、投資は継続していただきつつも、少しずつ慎重になっていただきたい、ということです。