はじめに
ときどき無性に食べたくなるものがあります。そのひとつがモスバーガーのテリヤキチキンバーガーです。大学進学をきっかけに、東京に出てきてはじめて食べたテリヤキチキンバーガーの美味しさは、今でも覚えています。
モスバーガーは、ファーストフードの中でも手作り感が強く、お値段は少しお高め、学生時代はちょっとしたご褒美ごはんの位置付けでした。ほかのハンバーガーチェーンと比べると、挟まれているレタスにボリュームがあり、栄養バランスがよいのも魅力。ただ、株式市場で、モスバーガーを運営するモスフードサービスが話題になることは、ほとんどありません。業界1位の日本マクドナルドHDは決算発表のたび報道されますが、業界2位のモスフードサービスに対する注目度は残念ながら低いと言えます。
2018年に起こった事故の影響
モスバーガーは、1972年に東京都板橋区の八百屋さんの倉庫を改装したわずか2.8坪の店舗からスタートしています。現在(2023年9月時点)では、国内1,296店舗、海外455店舗を構える業界2位の大手チェーンに成長しました。
当社の成長の原動力は、独特のメニュー展開にあります。バンズをご飯に替えるなんて、いったい誰が思いついたのでしょう。今ではなんの抵抗もないですが「モスライスバーガー」は神メニューです。また、当初から野菜は全て国産のものを使用するという品質へのこだわりは、ほかのバーガーチェーンと一線を画していました。駅からやや遠い立地にあっても、わざわざモスバーガーへ足を運ぶ熱烈ファンが多いのは、モスに行かないと食べられない味があるからだと思います。
ところが、当社への信頼が大きく揺らぐ事故がありました。2018年、チェーン本部から納入した食材が原因と考えられる食中毒で利用者28人が被害にあいました。食材へのこだわりが売りだった当社にとっては大きなダメージです。その翌年は、売上は約7%減少し、フランチャイズ加盟店に11億円以上の営業保証金を支払ったことにより最終利益は赤字に転落しました。2018年の月次売り上げを見ると、事故があった翌月9月は前年比85%と落ち込みが大きく、モスファンにとっても衝撃だったことが伺えます。
事故を受け、当社は食品の生産から店舗にかけて衛生管理を強化する再発防止策を発表しました。新たに「取り組むモスです。」というページも立ち上げ、安全対策の強化について随時報告しています。その真摯な態度が評価され、2019年3月の既存店売り上げは前年比102.3%まで回復しています。
余談ですが、食中毒事故のあと、マーケティングの本部長として日清食品の創設者の孫である安藤芳徳氏が当社に参加しています。安藤氏は、伊藤忠商事·欧州の食料本部部長→UCC上島珈琲専務取締役→モスフードサービス上席執行役員マーケティング本部長という食品一筋の経歴の持ち主。事故後の信頼回復が異常に早かったのは、安藤氏の功績とも言われているようです。