はじめに

なぜ今、資産運用なのか

皆さんは、貯めたお金をどのように管理していますか? 銀行口座にそのまま貯金している、そんな方も多いのではないでしょうか。

日本人は、アメリカやEU諸国と比べて、金融資産を現金・預金で保持している人の割合が高い、というデータがあります(http://www.boj.or.jp/statistics/sj/index.htm/)。

かつては定期預金に預けておくだけで、お金を増やすことができました。

もっとも利息が高かった1991年には、普通預金の金利が3.22%、1年の定期預金の金利は5.78%でした(http://www.boj.or.jp/statistics/pub/sk/index.htm/)。

預金しておくだけで、ある程度お金は増えていたのですね。

2017年現在、メガバンクの定期預金の利息はおおよそ0.001%。100万円を1年間預けても、利息は100円程度。20.315%の税金が差し引かれますので、手取りは80円弱となります。

過去と現在では物価の上昇率が違うため単純に比較はできませんが、預金しておくだけではほとんどお金は増えないことに間違いありません。平均寿命が伸びている今、老後にかかる資金のことを考えると、ある程度のリターンが欲しいところです。

こうした背景も手伝ってか、「投資による資産運用」が注目されています。

最近、ニュースや新聞などで目にする「iDeCo」や「NISA」「つみたてNISA」。これらは、国が個人の資産運用を応援する目的に作った制度です。運用益が非課税になったり、支払う税金が安くなったりすることもあり、「税制優遇制度」と呼ばれています。

投資による資産運用を始めるならば、まずはこうした制度をぜひ利用すべきです。今回は税制優遇制度から「iDeCo」と「NISA」を取り上げ、それを活用することのメリット、デメリットといった基本をご紹介します。


iDeCoは老後のための制度

iDeCoはひとことで説明すると「節税しながら老後資金を準備できる制度」です。老後資金というと年金のようですが、まさにその通り。iDeCoは、「Individual-type Defined Contribution pension plan」の頭文字をとったもので、正式には「個人型確定拠出年金」といいます。

下の図のように、国民年金や厚生年金に上乗せする、とイメージしてください。

iDeCoは、毎月掛け金を出して、投資信託や預金などで運用し(自分で選べます)、60歳以降に積み立てて運用してきたお金を受け取ります。法改正によって、2017年1月から日本国民のほぼ全員が加入できるようになりました。

※会社員の方は、企業年金の規約によっては加入できない場合があります。また、国民年金に加入していない方(保険料を支払っていない方)は加入できません。

iDeCoの大きなメリットは、なんといっても税制面での優遇措置です。

メリット1:所得税・住民税が安くなる

iDeCoの掛け金は全額が所得控除(税金の対象から差し引かれる)されます。つまり、所得税と住民税が安くなります。

たとえば、課税所得が500万円の自営業者の方の場合。

掛け金を上限いっぱいの月6万8000円(年額81万6000円)に設定すると、1年間の節税額は、6万8000円×税率30%×12ヶ月=24万4800円になります(税率は所得税20%・住民税10%の計30%と仮定)。

20年間掛け金を支払い続ければ489万6000円、30年間続ければ734万円4000円もの節税になります。加入期間が長くなればなるほど、節税できる金額が大きくなります。

メリット2:運用益が非課税

iDeCoの運用によって得た利益には、課税されません。

一般の金融商品は、運用益に対し20.315%の税金がかかります(先述した銀行口座もそうですね)。しかし、iDeCoの場合は、運用期間中に発生した利息や分配金、売却益はすべて非課税となります。

運用で利益が出ている場合、非課税の運用益を元本をさらに加えられるので、徐々に元本部分が大きくなっていき、より効果的に資産を増やすことができます(複利効果)。

メリット3:受け取るときにも優遇あり

積み立て運用してきたお金を受けとるときにも、優遇措置があります。

一時金として一括で受け取る場合には「退職所得控除」、年金として毎月受け取る場合には「公的年金等控除」が利用できます。平均的な収入の方であれば、課税の対象にならないケースが多いでしょう。

※一時金として受けとる際、会社員の方は退職金などで退職所得控除を使い切ってしまうことがあります。退職所得控除を超えた分は課税されますので、受け取り方には注意が必要です。

iDeCoのデメリットはある?

いいことずくめに見えるiDeCoですが、デメリットはもあります。

デメリット1:60歳まで引き出せない

すでに何度か述べていますが、iDeCoで積み立てたお金は、原則として60歳まで受け取ることができません。

不慮の事態でお金が必要になった…そんな時でも、拠出した金額が50万円以下など限られた場合を除き、お金を引き出すことはできません。「iDeCoの積み立て金は60歳までロックされる」と考えてください。

したがって、掛け金は無理のない金額に設定しましょう。掛け金は、5000円以上で、1000円単位で自分で設定できます。もし、掛け金の支払いが厳しくなった場合には、年に1度、掛け金を変更をすることができます(一時的に掛け金を払うことをストップすることも可能です)。

※掛け金には上限が設定されています。2017年現在、自営業者など第1号被保険者の方は、掛け金の上限は月額6万8000円(年額81万6000円)。企業年金のある会社員の方の場合、掛け金の上限は月額2万3000円(年額27万6000円)です。

ただ、iDeCoの目的は、あくまでも老後の資金の積み立てです。途中で引き出せないことは、メリットといえるかもしれません。

デメリット2:運用のリスク、将来の価格はわからない

これはiDeCoに限った話ではありませんが、株式や投資信託など(リスク資産といいます)で運用する場合、リターンも期待できますが、元本が割れる可能性もあります。

自分が60歳以降になったとき(積み立てたお金を受け取るとき)の社会情勢や経済状況が大きく関係するはずですが、予測することは困難です。

iDeCoでは、自分で運用する商品を決めることができます。預貯金や保険商品といった元本が保証されている商品も選ぶことができますので、ある程度リスクをコントロールすることができます。

人それぞれのリスク許容度に合わせて、「元本は保証されているけれどリターンがほとんどないもの」と「リスクはあるけれどリターンも期待できるもの」を組み合せることで、このデメリットは克服できるはずです。

たとえば、60歳近くになって運用益が多く出ているようであれば、リスク資産を減らして、元本保証型の商品に切り替える、といったことも可能です。

NISAとの使い分けは?

では、もうひとつの税制優遇制度「NISA」をみてみましょう。こちらは、ひとことでいうと「いろいろな制限はあるけれど、運用益が非課税のおいしい制度」です。

NISAの正式名称は「少額投資非課税制度」。少額(年間120万円まで)の投資で得た運用益や配当金などが非課税となる制度です。通常の口座では20.315%の税金がかかりますので、有利ですね。iDeCoとは違って、積み立てた資金の払い出しはいつでも可能です。

ただし、NISAにはいくつかの制限があります。

まず、非課税の期間はそれぞれ最大5年間、非課税枠を使っての投資総額は合計600万円となっています。また、5年間の途中で売った場合は、非課税枠を使ったとみなされ、再利用をすることができません。短期的な売買には向いていない、ということですね。

次に、NISAでは元本が保証されている商品を選ぶことができません。損失が出た場合は、運用益が出ていませんので非課税のメリットは受けられません(当たり前ですが……)。

損失が出た場合、他に資産運用している口座との損益通算(通常の口座であれば損失と利益を合算して所得を計算します)、翌年以降への損失繰越も不可でとなっています(通常の口座では3年まで損失を繰越せます)。

ただし、通常の口座で資産運用をしない方、NISAで運用を始める方は、仮に損失が出てしまっても、通常の口座と手取りは変わりませんので、それほど気にしなくても良いでしょう。

このように「iDeCo」と「NISA」は、制度の設計や目的が異なります。

iDeCoは「税金が安くなる」「運用益が非課税」「受け取るときの優遇措置」という3つの大きなメリットがあり、老後の資金作りにもってこいの制度です。

NISAは、「今までやってこなかったけれど、株式や投資信託で中期的な資産運用を行ってみたい」と思っている方に、おすすめの制度です。

資産運用を始めるならば、まずはこうした税制優遇されている制度から始めてみるのはいかがでしょうか。

(執筆協力:ファイナンシャルライター 瀧健)

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