はじめに
「原野商法」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
原野商法とは、値上がりする見込みがない原野や山林を、ありもしない開発計画などをちらつかせて、「今のうちに買えば、将来確実に土地が値上がりして儲かる」と錯覚してしまう説明によって、青田買いをさせるものです。
現代であれば、そんなうまい話ないだろうと冷静に判断できそうなものです。しかし、原野商法が多発していた1970年代から1980年代は、高度経済成長に伴うバブル期で、さまざまな物価は上昇基調にありました。その影響もあって、「土地神話」という、将来ずっと値上がりし続ける低リスク高リターンの金融資産という価値観が後押しし、このような被害が相当数あったものと予想されます。
そして平成・令和に入り、今度は「原野商法の二次被害」というトラブルを耳にするようになりました。そして、この二次被害は、年々増加の一途を辿っています。相談窓口である国民生活センターに寄せられた二次被害に関する相談は、2010年度までは年間500件以下だった一方、2013年度以降、ほぼ毎年1,000件を超えており、問題は年々深刻になっています。
そこで、今回は
・原野商法の二次被害とはどんなものか
・二次被害に巻き込まれないためにはどうすればいいか
についてみていきたいと思います。
原野商法の二次被害とは?
「原野商法の二次被害」とは、冒頭で紹介したバブル期の原野商法に巻き込まれ、使い道もない土地を買ってしまった土地所有者やその相続人に対して、さらに原野等を売りつけたり、金銭をだまし取ったりするものです。特に、原野商法による土地所有者や相続人は、「不要な土地を子供や孫に相続させたくない」という気持ちを持っており、一方で、一般的な不動産会社には売却相談にも乗ってくれず、行政に寄付を申し出ても断られ、処分できる手段がまったく見つからないまま、八方塞がりになっている焦りがあります。
具体的な被害例を幾つかご紹介します。
①サービス提供型
例えば「あなたの土地を高額で欲しがっている人がたくさんいるので、売却活動を任せてくれないか」などといいつつ、依頼者に調査費用や測量費用などを支払わせるものです。実際には、数十万円から百万円を超えるような費用を払わせた後、特に積極的な営業活動も行わず、「市況が急に変わって、なかなか買い手がつかない」といった曖昧な口実で一向に取引成就のメドも立ちません。依頼者にとっては売却処分が果たせないまま、高額な支払いだけが結果として残ってしまう手口です。
不動産売却のためには、除草伐採や測量、広告費のかかる営業活動などが事前に必要になるケースもゼロではありません。しかし、悪質な業者の中には、はじめから調査費用や測量費だけを得る目的で、買い手を探す努力をするつもりもないのに、まるで売却処分が保証されているような口ぶりで契約を強いるのです。
②下取り型
例えば「あなたの原野を当社が300万円で購入する」などと話を進めつつ、契約直前になって「節税対策のために、別の山林を500万円で購入してほしい。この山林は、いつでもすぐ売れるような好立地の土地だ」などといって、所有地の売却処分の代わりに、200万円の追加支出とともに、欲しくもない新たな土地を購入させられるケースです。
おそらくここで想像できた方も多いと思いますが、強引に購入させられた土地も市場価値はゼロに近い原野や山林で、高額な出費と、またしても不要な土地の処分に悩まされることになります。
原野商法の2次被害には、他にもさまざまな手口があり、かつ巧妙化してきています。特に最近では、不要な土地を国が有料で引き取る相続土地国庫帰属制度(2023年開始)、相続による不動産の名義変更を行わないことに対して罰則を新設した相続登記義務化(2024年4月開始)により、相続や遊休不動産に対する危機意識が高まっているため、その不安な気持ちに漬け込む悪質な業者がさらに増えることも予想されます。
ちなみに、悪質な業者は、どうやって原野商法の所有者を特定して勧誘をしているかというと、バブル期に原野商法として切り売りされた原野や山林がどこにあるかを把握しているのです。その土地一帯の登記簿を取得して、所有者として載っている住所に手紙を送ったり、電話番号を調べて勧誘営業をしたりしてくるのです。
その意味で、バブル期に購入した原野商法の土地の購入者やその相続人は、いつ標的にされてもおかしくない状態にあります。