はじめに
「老後資金を貯めるためにNISAを始めた方がいいのではないか」。
2024年、新NISAがスタートしたことをきっかけに、そんな思いを抱いている方もいらっしゃるでしょう。ファイナンシャルプランナーの元に相談に来られたAさん(57歳)もそのうちのお一人です。
そもそも、老後資金を貯める方法は当然ながらNISAだけではありません。本記事では、老後資金を貯めるために最初にすべきことと、50代だからこそ活用したい老後資金準備に有効なiDeCo(個人型確定拠出年金)について解説します。
老後資金を貯めるには現状把握から
老後資金を貯めるために「NISAを始めた方がいいのだろうか」といった「手段」から考えるのは危険です。まずすべきなのは、「いくら必要なのか」「あと何年で準備が必要か」といった「目標」を知ることです。そこから「どうやって貯めるのか」を計画します。
そのために、ライフプランを作り、現在から亡くなるまでのお金の収支の全体像を把握します。これからの働き方、どんな暮らしを送りたいのかをイメージしてみましょう。少なくとも平均寿命(男性 約81歳、女性約87歳)まで生きた場合、入ってくるお金(収入、公的年金、保険金など)と持っているお金(預貯金、金融資産)はどれくらいか、暮らしに必要な費用を賄えるか、によって老後資金対策の必要性がわかります。
自分が「これくらいならできそう」と思う金額でNISAを始めたとしても、本来必要な老後資金に足りなければ、老後資金対策として万全とは言えません。
必要な老後資金を確実に準備するためには、まず現状を把握してから必要に応じた対策方法を考える、という順番で取り組みましょう。
50代だからこそiDeCoが有効な訳
必要な老後資金額が明確になったら、どうやって貯めるのか、手段を決めます。50代の方は、NISAではなくiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用することをまずは検討してみましょう。
iDeCoは老後の資産形成を目的として作られた私的年金制度です。自分で掛金を拠出して、運用方法を選び、掛金とその運用益との合計額を一時金または年金として受け取ります。iDeCoには「掛金が全額所得控除」「運用益が非課税で再投資が可能」「受け取る時も大きな控除が受けられる」といった3つの税制メリットがあります。
なかでも、掛金の全額が所得控除の対象となり、税負担が軽減される仕組みは、NISAにはない大きな特徴です。
軽減される税負担額の目安は以下の計算で求めることができます。
相談者Aさん(年収750万円、所得税率20%、会社に企業年金がない会社員)が上限金額(月額2.3万円)まで拠出した場合、年間で軽減される所得税と住民税を合わせた額は以下の通りです。
(23,000円×12ヶ月)×(20%+10%)=82,800円
この所得控除はiDeCoに拠出をしている間、毎年受けることができます(所得の増減などにより所得税率が変わる場合、金額は変動します)。今後も働く期間が一定年数あり、所得が生涯のなかでもピークを迎える可能性の高い50代は、税負担軽減の恩恵を受けやすい世代です。
iDeCoは老後の資産形成を目的とした年金制度なので、原則として60歳にならないと資産を引き出すことができません。これから住宅購入や子どもの大学進学といった大きなライフイベントが控えている若い世代では、60歳以降にしか資金を引き出せない点がネックとなります。しかし、上記のようなライフイベントが落ち着いてくる50代であれば影響が少ないでしょう。以上の点から、iDeCoは50代の老後資金準備に有効な選択肢といえます。
ただし、iDeCoは加入している公的年金の種類や、勤務先の企業年金制度の有無によって拠出できる掛金の上限金額が異なります。また、勤務先に企業型確定拠出年金制度がある場合、iDeCoの利用自体ができない、もしくはマッチング拠出制度を利用した方が効果的な場合もあります。事前に、勤務先の年金制度について必ず確認をしましょう。
その他、すでに住宅ローン控除やふるさと納税を活用している方はiDeCoとの併用ができるものの、そのバランスに頭を悩ませている方も少なくありません。それぞれの制度の活用バランスが人によって異なるからです。「税制優遇制度をお得に活用したい!」と思う方にこそ、ライフプランが有効ということを覚えておきましょう。