はじめに
将来受け取れる年金は?
ご相談者のAさんが気にされているのは、貯蓄と年金だけで老後の生活を送ることができるのかどうか、という点です。まずは、Aさんがどれくらいの年金を受け取れるのかをみていきます。会社員のAさんは、公的年金として国民年金と厚生年金を受け取ることができます。
厚生年金の受給額は、厚生年金の加入期間と加入期間中の収入によって計算されます。厚生労働省の公的年金シミュレーターを使った試算によると、Aさんが60歳まで働いた場合、65歳から受給できる公的年金の額の目安は月額で約16万4,000円となりました。日本年金機構の「ねんきんネット」を利用すると、より詳細な見込み額の試算をすることができます。
Aさんの様に将来受け取る年金見込額が知りたい時や、ご自身の年金記録を確認したい時は「ねんきんネット」を是非活用されてみてください。
老後の生活費はどれくらい必要?
次に、老後の生活費にいくら必要なのかを試算します。
Aさんの場合、現在の生活費をベースに、老後には減らせるであろう支出をピックアップしました。その結果、職場でのランチ代(2万円)、交際費や被服費(5万円)など、トータルで現在より7万円の支出減は可能だと判断し、老後の生活費を月20万円としました。また、勤務先の退職金制度からAさんの退職金を1,200万円と仮定します。これを基にライフプランを作成し、Aさんの老後の生活費をシミュレーションすると、Aさんの退職時の資産は3,349万円、年間収支を反映した貯蓄残高の推移で、80歳に貯蓄残高が38万円、81歳には-42万円となり、貯蓄と年金だけで生活できるのは80歳までということがわかりました。
2023年度の総務省の「家計調査年報」によると、65歳以上の「単身世帯」の毎月の支出額平均は15万7,673円となっています。
支出はそれぞれの環境や価値観が大いに反映されるものです。ご自身の老後の生活費を考える場合、現在の生活費をベースにした方が実態に沿うシミュレーションができます。ただし、現在の支出がわからないのであれば、一旦平均データを用いて老後に必要な生活費をイメージしてみるのも良いでしょう。
老後への備えは最低限あればいい?ゆとりが必要?
Aさんは老後の生活水準をあまり下げたくないとのご希望をお持ちです。Aさんのご希望を叶えるため、老後の生活費を月25万円として試算してみます。この場合、年間収支を伴う貯蓄残高の推移で、71歳で貯蓄残高が35万円、72歳には-132万円となり、Aさんが貯蓄と年金だけで生活できるのは72歳まででした。
Aさんのように、ゆとりある老後を送りたいという希望をお持ちの方も多いのではないでしょうか。2022年に生命保険文化センターが公表した老後2人の生活のための「ゆとりある老後生活費」は、「最低日常生活費」平均23.2万円と「ゆとりのための上乗せ額」14.8万で、合計約38万円となります。これは2人暮らしの場合ですが、ゆとりのある老後を望む場合、単身世帯であっても同様に、さらなる老後への備えが必要になります。
生活費の「なんとなく」を見直して貯蓄額を増やす
老後の生活水準を下げたくないAさんの希望を叶えるには、現在の貯蓄ペースでは老後資金の準備が不足することがわかりました。不足を補うためには、現在の生活費の見直しが必要です。
Aさんの生活費の内訳を見てみると、支出全体の40%という大きな割合を娯楽費が占めていることがわかります。趣味の旅行やスポーツ観戦、交際費はAさんにとって欠かせないものです。とはいえ、老後への備えができないまま、娯楽にお金を使うことはAさんも望まないとのことでした。そこで、娯楽費を生活費の30%に抑えることを目標にしました。
そのため、旅行やスポーツ観戦は毎月の予算を決め、回数を減らしたり、1回あたりの費用を抑えたりして、予算内で楽しむことを目指します。
また、3つの有料動画配信サービスのサブスクリプションにも登録していますが、利用していない月もあるとのことでした。利用頻度が少ないものは解約し、自分にとって本当に必要なサービスだけを使うようにし、「なんとなく」で支出することやめ、娯楽費の削減を図りました。
その結果、月3万円の余剰金が生まれ、月5万円だった貯蓄額を8万円に増やすことが可能になりました。