はじめに
2023年以降、訪日外国人客の本格回復や富裕層需要の拡大を追い風に、百貨店各社は業績を着実に回復させています。上場している百貨店大手4社(三越伊勢丹HD(3099)、J.フロントリテイリング(3086)、エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)、高島屋(8233))の直近までの業績は、過去最高益を更新しており、コロナ前を軽々超えています。
ここのところトランプ関税による影響が危ぶまれる中、比較的影響が少ないであろう百貨店株なら、買ってもよいのでは? 投資家の中にはそう考える人も少なくないでしょう。ところが、実際の株式市場では百貨店株が総じて冴えない展開が続いています。
高島屋、J.フロントリテイリングの決算は?
百貨店大手4社とも、2024年の8月に急落したのち浮上できず、2025年に入ってからは下落傾向にあります。2024年の株価上昇が華々しかった反動減で調整しているのであれば、今が買い時ともいえますが、今後の業績に不安があるなら、ここで手をだすのを早計です。もしくは、同じ百貨店でも選別次第で、パフォーマンスに大きな差が出るかもしれません。
それぞれの直近の決算内容を確認してみましょう。
高島屋とJフロントは2月期決算のため、すでに2025年2月期の本決算と新年度予想が発表されています。まずは高島屋から。
4月14日に発表された2025年2月期の営業収益4,984億円(前年比+6.9%)、営業利益575億円(前年比+25.2%)。営業利益率は、13.9%で前年度から2%改善しています
セグメント別営業利益では、国内百貨店業が285億円で前年比+35.5%とやはり好調でした。そのうちインバウンド売上は15%で、とくに高額品が前年比+20.9%と堅調です。
2026年2月期予想は、営業収益5,212億円(前年比+4.6%)、営業利益580億円(+0.9%)と営業利益の伸び率が鈍化しています。理由の一つは、インバウンド売上が前年度の1,160億円から今期は1,100億円へとやや減速すると見込まれているためです。これは中国経済の低迷や相互関税により、訪日観光の伸び悩みが想定されているようです。
さらに国内では、物価高の影響で消費者の財布の紐が堅くなり、とくに中間層の支出行動が弱くなると想定しているためです。
次は高島屋と同日に発表された大丸、松坂屋、パルコを展開するJフロントの決算を見てみます。
2025年2月期の売上収益4,418億円(前年比+8.6%)、事業利益534億円(前年比+20.7%)。こちらも二桁の増益で着地しております。高島屋と同様、百貨店事業の伸びが大きく、営業利益は297億円、前年比+27%。また、SC(パルコ)も営業利益は129億円、前年比+36%と堅調で、渋谷・心斎橋PARCOが牽引しています。
2026年2月期予想は、売上4,590億円(前年比+3.9%)、事業利益540億円(+1.0%)とやはり利益は横ばいです。こちらも成長鈍化の理由としては、インバウンド回復一巡と、物価高により国内消費の停滞を挙げています。
すでに新年度の見通しを出した2社をみる限り、2025年の百貨店の売上は足踏みしそうです。
三越伊勢丹とエイチ・ツー・オー リテイリングの現状
では、これから本決算と新年度予想を発表する残り2社の現状を確認します。
三越伊勢丹ホールディングスの25年3月期第三四半期決算では、営業利益599億円(前年比+46.4%)で、通期予想720億円に対する進捗率は、83%なので難なく達成できそうです。
国内百貨店でダントツ首位の売上高を誇る伊勢丹新宿店は、第3四半期までで3,149億円の売上高で、抜群の安定感を保っています。意外なところでは、福岡の岩田屋三越が売上1,009億円で、三越銀座店の927億円を上回っていることです。福岡は韓国から近いこともあり、インバウンド客が地方都市の中でもとくに多いのかもしれません。先日、福岡旅行にいったときも、場所によっては行列ができるほど賑わっていました。
現状では、来期の見通しについての具体的な言及はありませんが、2026年度から新しい中期経営計画がスタートします。当社は、“識別顧客”ごとのデータをもとに最適な提案・サービスを提供する”個客業”を強化しつつあり、新年度が戦略転換期に入る重要な年になります。いったいどんな中計を出してくるか楽しみです。
最後にエイチ・ツー・オー リテイリングを見てみましょう。
2月5日に発表された2025年3月期の第3四半期の営業利益は、289億円(前年比+30.4%)。とくに阪急うめだ本店が好調で、店舗別売上では2,778億円と前年比で20.9%の伸びとなっています。通期の営業利益予想310億円に対する進捗率は、93%ですので、こちらも問題なく予想値をクリアしそうです。
当社の場合、食品スーパー事業が売上の40%近くを占めているため、インバウンド頼みでないところが強みになります。新年度は、百貨店事業の伸び率鈍化を、食品事業とショッピングセンターなどの商業施設事業がどれだけカバーできるかがキモになりそうです。