はじめに
昨今の物価の上昇が国民の生活を直撃しています。最近では、特にお米の値上がりについて、政府が備蓄米を放出したにも関わらず、流通など構造的な問題で値段が下がらないことがテレビの報道番組などで盛んに取り上げられていて、気にされている方も多いのではないでしょうか。もうひとつ、人々の生活に密着しているモノとして挙げられるのがガソリン。ここでは、その「ガソリンの価格」について、今後の動向を考察します。
原油価格の動向
4月22日、石破茂首相はガソリン価格を段階的に10円引き下げることを発表しました。首相が本当に経済や国民生活のことを考えているのであれば、5月の大型連休に間に合わせるようにしたはずです。しかし、引き下げが実施されるのは5月22日以降。価格引き下げに向けた事務的な手続きや、ガソリン元売り業者の対応準備などに配慮して猶予期間を設けたのでしょう。ただ、どうせ引き下げるなら、2025年1月に終了した物価高騰への対策「燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)」を維持すれば良かったのでは……と思わざるを得ません。
さて、本論のガソリン価格について述べていきましょう。まず、ガソリンには1リットル当たりガソリン税53.8円、石油石炭税2.8円、合計で56.6円の税金がかかっています(ここに10%の消費税が加算)。政府は、道路財源確保のためにガソリン価格に上乗せされてきた「暫定税率」を廃止する方向で動いていますが、与党内の調整にもうしばらくかかりそうです。暫定税率が廃止されればガソリン価格は1リットル当たり約25円下がることになりますから、消費者にとっては嬉しいニュースになるでしょう。
続いて、ガソリンの元になる原油価格の動向を見ていきましょう。日本の原油の中東依存度は約95%と、原油はほぼ中東からの輸入に頼っています。国際的な原油価格の指標では「WTI原油先物価格」が広く知られていますが、中東ドバイの原油価格もほぼWTIの価格に連動しているため、原油価格の動向を見るには、データやチャートが豊富なWTI原油先物を検索するといいでしょう。
ガソリンは1リットル=140円程度まで値下がりする可能性
そのWTIの価格は、コロナ禍で原油の需要が大きく減少するとの見方から、2020年には1バレル当たり20ドル台まで急落します。しかし、コロナ禍からの脱却とロシア・ウクライナ戦争の勃発を背景に、WTI価格は1バレル当たり120ドルまで上昇しました。
こうした原油価格の乱高下を受け、2020年、日本国内のレギュラーガソリン価格は、その数年前の1リットル当たり150円程度から一時的に120円台前半まで大きく下落しました。しかし、ガソリン価格に関わる“もうひとつの要因”も加わり、2023年以降は一気に180円近辺まで一気に上がります。
もっとも、WTIは2022年の夏をピークに下落に転じ、2023年には1バレル当たり70ドル前後まで値を下げました。さらに、2025年以降、トランプ米大統領の関税政策によって世界経済全体が落ち込むとの見方から、価格下落が加速。5月に入ると、同57ドルを割り込む水準まで値を下げました。ピークだった2022年と比べると、ほぼ半値になっているわけです。
「原油価格がそんなに下がっているのに、ガソリン価格は下がってないじゃないか!」という憤りの声が聞こえてきそうですが、原油価格の推移がガソリン価格に反映されるには1カ月程度のタイムラグがあるとされています。また、ガソリン元売り会社としては、原油価格が急激に下がったとしても、原油を高値で仕入れた時の在庫に評価損が生じるため、原油価格の下落を、“ただちに”そのまま反映させられないというのが実情ではないでしょうか。
とはいえ、原油価格が足元でこれだけ下落しているわけですから、今後数か月の間に、レギュラーガソリンの価格は、WTIが現在と同じ60ドル前後で推移していた2018~2019年当時の価格(1リットル当たり140円程度)まで下がっても不思議はないでしょう。ただし、当時と比べると輸送コストや人件費などのコストが上がっているため、当時の価格よりはコストの増加が反映される形にはなりそうです。