はじめに

「ディズニーランドの株は下がらない」。そんな“神話”がささやかれてきたオリエンタルランド株(4661)が、2024年を境に大きく揺れ動いています。株価は一時、5,700円を超える高値をつけていましたが、2025年春にはその半値近くまで下落しています。

「そろそろ買い時?」「それともまだまだ下落は続く?」――かつての超優良株の行方は、多くの個人投資家の関心を集めています。


株価下落の背景:着地の数字は過去最高! でも「期待外れ」?

オリエンタルランドの2025年3月期決算は、売上高6,793億円(前年比+9.8%)、営業利益1,721億円(+4.0%)と、売上、利益ともに過去最高を記録、数字上は好業績でした。ところが決算発表翌日の株価は、-3.6%の下落。投資家はこの結果に冷淡でした。

その理由の一つが「成長の天井感」です。コロナ後の反動増で、2021年、22年、23年は来園者数が順調に伸びましたが、24年は23年とほぼ同数です。さすがにここ数年のチケット代や園内の飲食代、お土産代などの値上げについてこれなくなった軽めのディズニーファンが脱落しているのかもしれません。推し活にお金を惜しまないコアなファンや富裕層は引き続き来園するものの、そこまでの熱意がなければ、チケットひとり1万円越えのディズニーリゾートへの足は重くなります。とくに家族連れにとっては、ほんとに「夢の国」となってしまいました。

2026年3月期の通期会社予想は、売上高6,933億円(+2.1%)、営業利益1,600億円(-7.0%)と、減益予想となっています。なお、会社四季報春号の予想は、売上高7,350億円、営業利益1,850億円だったので、それよりも下振れ予想です。

減益予想の理由は、ファンタジースプリングス開業に伴う投資や人件費増によるもので、やむを得ないともいえます。魅力的なアトラクションが、今後の集客ドライバーとなる可能性ももちろんあります。ただ、市場は、営業利益率が低下していくことに、「今後の利益成長が不透明」と感じており、「持っているだけで上がる株」だったオリエンタルランド株を見直し始めています。

加えて、かつてPER(株価収益率)60倍超という高評価を受けていましたが、それは「成長期待」を織り込んだ水準。現在は40倍台まで修正されており、適正化の過程にあるともいえます。

オリエンタルランドの株を「買いたくなる」理由

株価が大きく下がると、「これは買い場だ」と感じる人が増えるのは自然な心理です。特にオリエンタルランドのような“ブランド銘柄”では、その傾向が顕著です。

まず働くのが「アンカリング効果」です。人は過去の高値を基準にして今の価格を判断してしまう性があり、高値の5,700円が頭に焼き付いていると、3,000円代という価格は「半額で買えるお得感」を錯覚させます。しかし、過去の株価が今の企業価値と整合しているとは限りません。

次に「プロスペクト理論」も見逃せません。これは「損を避けたい」という人間の心理から、下がったものを「回復するはず」と信じてしまう行動です。実際、SNSなどでも「さすがに下がりすぎ」「長期で見れば絶対戻る」という声が多く見受けられます。

さらにオリエンタルランドには、投資家の“情緒”を刺激する要素を多く持っています。

・株主優待(ディズニーパスポート)は圧倒的な人気
・子ども時代の思い出、家族の記憶といった感情的な価値
・長年の上昇相場で生まれた「持っていれば安心」という幻想

くわえて、投資家の心理を刺激する企業側の“演出”もあります。

たとえば2025年4月に発表された創業65周年記念株主優待。通常より低いハードル(100株保有)で1デーパスポートが付与されるこの優待は、一見すると節目の祝福ですが、株価下落による株主離れを防ぐ意図が見え隠れします。

「優待をもらえるなら今買っておこう」という気持ちは自然ですが、これは投資判断というより“特典に引っ張られた消費行動”に近いでしょう。企業が意図的に投資家の感情を刺激する施策を打つことはよくある手法です。今回の優待は、まさにそうした“心理的クッション材”といえるでしょう。

これらはすべて、冷静な投資判断を難くします。実際、投資家の間では「夢を買う投資」という言葉すら聞かれます。夢の国の株を持つことが、まるで“応援”であるかのように錯覚させる力があるのです。

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