はじめに

退職金の賢い使い方と起業に向けたお金の整理法

まず、退職金は一括で受け取ることで「退職所得控除」が適用され、税負担を大きく軽減できます。Aさんのように長く勤続してきた方は、控除額も大きく、場合によってはほとんど課税されないケースもあります。

例えば、勤続38年の場合、2,060万円(=800万円+70万円×(38年-20年))まで控除が認められるため、ほとんど税金がかからないケースもあります。また、社会保険料がかからないことも押さえておきたいポイントです。

一括でもらった退職一時金は、起業の初期資金にあてることができます。事務用品の購入やPCの買い替え、ホームページ作成費用などは「必要経費」として事業所得から差し引けるため、税務的にも合理的といえます。

なお、業務委託で継続的に収入が発生する場合は、その年の3月15日まで(または、開業から2ヶ月以内)に、税務署に「開業届」と一緒に青色申告書を提出するのが原則です。青色申告を行うと最大65万円の控除が受けられるうえ、万が一事業が赤字になった場合には、将来の黒字と相殺できる「繰越控除」の活用も可能です。

一方、DBやDCについては、生活費補填として年金形式で受け取るか、それとも一括で受け取るかは、他の収入や資産との兼ね合いで慎重に判断する必要があります。

年金形式で受け取る場合、金額に応じて一定の控除はあるものの毎年課税対象となることに加え、健康保険料や介護保険料など社会保険料の負担につながる可能性もあるため、税率や他の所得と合わせた試算が欠かせません。

定年後の業務委託や起業という選択肢は、60代からの「新しい働き方」として関心を持つ人も少なくないかもしれません。ただし、その裏には、退職金の受け取り方、所得区分、経費処理といった税務の基本を押さえておくことが不可欠です。

Aさんのように、「年金形式なら経費と相殺できるのでは?」と誤解したまま行動するのは危険です。今回のケースでいうならば、雑所得と事業所得は別物であることを理解しておくことが大切です。なお、不安や疑問があれば、専門家に相談しながら、自分に合った“セカンドキャリア設計”を考えてみることをおすすめします。 特に退職金の受け取り方は、ひとたび選択すると後戻りができないこともあります。制度を理解し、慎重に判断することが大切です。

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