はじめに

がん罹患後のライフプランを再構築する

とはいえ、相談者さんが、がんになる前に思い描いていたライフプランは、いったんちょっとリセットしてください。そのプランは、おそらく健康で長生きする人生が前提になっているからです。

がん罹患後は、まずは、足元の1~2年の短いスパンで計画を立て、目の前の問題を一つずつクリアにしていくことが大切です。そして、いわゆる“完治の目安”とも言われる5年を迎える頃になったら、新しいこれからのライフプランを再構築することを考えましょう。将来のことも不安でしょうが、まずやるべきは今から短期・中期の生活が成り立つかを考えることです。

「妊孕性温存」という選択肢について知っておく

それから、“結婚や出産を諦めることとなった”と決めつけるのも早計です。20~30代のがん患者さんの中には、がんになった後に結婚された方もたくさんいます(逆に離婚パターンもありますが…)。

出産については、未婚女性の場合、未受精卵子凍結(いわゆる卵子凍結)などの将来の妊娠の可能性を残す「妊孕性温存」の方法もあります。可能性があるかどうかだけでも、治療が始まる前に医療者に相談してみてください。

<参考>
※一般社団法人日本がん・生殖医療学会(2025年8月13日閲覧)
https://www.j-sfp.org/fertility/ 
※厚生労働省「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」(2025年8月13日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin_00010.html

これからの生活設計をどう考えるか?

それでは、「幸福度を高める金の使い方」をキーワードに、具体的にこれからの生活設計を考えてみましょう。

相談者さんは、月々30万円の手取り収入に対し、毎月の支出が44万円と14万円の赤字です。ボーナスが年85万円あり、そこから50万円を貯蓄に回していらっしゃるものの、今後もこの状態が続くと資産は目減りしていきます。

相談者さんのように、余命を考えるとせっかく貯めたお金を使いたい。でも、どれだけ治療費や長生きするか分からないから、どこまで使っても大丈夫かわからない…といった悩みを抱えるがん患者さんは少なくありません。

そこで、がん治療を続ける上で以下の3つを“安心の土台”として整えてみてください。

①1年分の「生活防衛資金」+「医療費(高額療養費の自己負担限度額)」=500万円

今の仕事は継続でき、年収も安定している見込み。退職リスクも低いようですので、今は以前より貯蓄ができなくても、収支トントンであれば良しとしてください。

ただ、何かあった場合に備え、1年分の生活防衛資金と医療費を確保しておきましょう。現在の生活費は44万円ですが、ここでは仕事が継続できる前提で、仮に、最低限必要な生活費を30万円だとした場合360万円。医療費が毎月10万円の場合120万円で、合計480万円です。今後の治療や生活の変動に備えるために、ざっくり500万円程度は普通預金など流動性の高いもので確保しておくことをお勧めします。

現在の貯蓄が100万円とのことですので、あと400万円を投資に回している分を取り崩し、補てんしておいてください。この500万円は「いつか旅行したい」「いつか買いたい」といった“夢の資金”ではなく、あなたが“今”を安心して過ごすためのお守りのようなお金です。使わなかったらラッキー、今後の見通しが立てられるようになったらまた投資すれば良いのです。そんな気持ちで持っておいてください。

なお、この金額はあくまでも仮の試算です。ご自身で振り返って調整していただいて構いません。

②高額療養費制度をフル活用する

すでにご存知の通り、「高額療養費制度」は、月額の医療費負担が一定を超えると、その超過分が後から戻ってくる仕組みです。しかし、相談者さんが「返金まで時間がかかる」と言っておられるように、事後精算のため、いったん立替払いが必要で、治療が長引けば、資金繰りが大変になってきます。

このような負担を避けるには、「限度額適用認定証」を事前に取得して、病院の窓口で提示することで、支払い自体を抑えることができます。まだお持ちでなければ、すぐに、協会けんぽや組合健保などに申請しましょう。なお、マイナ保険証を利用し、医療機関がオンライン資格確認システムに対応している場合、限度額適用認定証がなくても、認定証は不要で、窓口の支払いは限度額まででOKです。

また、認定証が外来で利用できるようになったため認知度は低いですが、医療費の支払いに充てる資金として、高額療養費支給見込額の原則8割相当額を無利子で貸付を行う「高額療養費貸付制度」があります。立替払いが大変なようなら、協会けんぽ等で確認してみてください。

③家計管理は「見える化」して、赤字と上手につきあう

現在の赤字は一時的なものかもしれません。でも、「感覚」で支出を続けていると、気づいたときには資産が底をついていた……という事態になりかねません。

そのためにも、収入・支出・資産を“見える化”しましょう。「赤字だからダメ」ではなく、「赤字の中でもどこを優先的に使うのか」を自覚的に選ぶことが、メリハリの効いた“幸福度を高めるお金の使い方”につながります。

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