はじめに
「何歳まで働けば安心ですか?」「いくらあれば老後は大丈夫ですか?」そんなご相談を受ける機会が増えています。仕事・健康・人間関係など、あらゆる面で変化が訪れる60代前半。定年後研究所の最新調査によると、この時期は仕事満足度が大きく下がる一方、人生満足度を高く保つ人には共通点があることがわかりました。
今回は、FPとして多くの相談を受ける立場から、定年後をどう働き、どう生きるかを考えるヒントをお伝えします。
60代前半、満足度が急落する「定年ショック期」
定年後研究所(公益財団法人ニッセイ聖隷健康福祉財団との共同調査)によると、60代前半の仕事満足度は男女ともに低下傾向にあります。特に男性では「満足していない」が「満足している」を上回り、仕事に充実感を見いだせない人が増えています。
定年前後は雇用形態の変化により、収入や役割が縮小する「転換期」です。調査では、60〜64歳男性の約3割が「仕事満足度が低下した」と回答しています。金銭的ゆとりや健康、社会とのつながりなど、あらゆる面で「不活性状態」に陥りやすく、まさに“定年ショック期”といえます。
筆者の相談現場でも「年金だけで暮らせる自信がない」「再雇用の条件に納得できない」といった声が多く聞かれます。老後資金への不安に加え、これまでの働き方や生き方をどう切り替えるべきかという心理的な迷いも、この年代の特徴です。
「お金」よりも「つながり」や「やりがい」が人生を満たす
調査結果で注目されるのは、働く目的と満足度の関係です。働く目的のトップは依然として「お金」ですが、人生全体の満足度を高めているのは「社会との接点」「健康維持」「必要とされるから」といった非金銭的な理由でした。
相談者の中には、「老後資金のために働いているつもりだったけれど、実際は人との関わりが生きがいになっている」と話す方もいます。仕事を通じて誰かに感謝されたり、日々の会話が励みになったりするなど、“働くこと”が「お金」だけでは測れない価値を持つことに気づく瞬間です。
さらに、仕事を選ぶ際の重視点として、「仕事内容」「やりがい」「働く時間・場所の柔軟さ」など“働き方の質”が上位に挙がっています。「給与水準」は必ずしも最優先ではなく、60代前半は「収入確保」から「生き方の再構築」へと軸足を移す時期といえます。
「定年準備」がその後の幸福度を分ける
調査では、「セカンドキャリアの準備をしていたか」が人生満足度を大きく左右することも示されました。「十分または多少準備した」と回答した人では、定年後に「人生満足度が向上した」と答えた割合が26.5%にのぼり、準備していなかった層の約1.5倍に達しています。
準備ができていた人は、仕事だけでなく家庭・地域・趣味など、複数の役割を持つ傾向が強く、人生の充実度も高いようです。一方、準備をしていなかった人の34.7%が「特に役割がない」と回答しており、役割喪失が満足度の低下に直結していることがうかがえます。
報告書では「50代からの準備が極めて重要」と指摘されており、人生100年時代を見据えた“働く再設計”がカギとなります。この「準備」とは、再就職先を探すことに限らず、「これからどんな時間を過ごしたいか」を明確にすることでもあります。