はじめに
デフレ時代が長く続いた日本でも、ここ数年でインフレ時代へと突入しつつあることを痛感するようになりました。数ヶ月単位で物価が上昇していく中、賃金上昇のスピードは追いつかず、必然的に節約志向が強まります。外食を控えたり、サブスクを見直したりする動きが広まる中、じつは高級腕時計の需要は堅調です。
国内2大時計メーカー、セイコーグループ(8050)と、シチズン時計(7762)の株価もここにきて急上昇しており、注目が集まっています。高級腕時計には手が届かなくとも、投資家としてその恩恵には預かりたい。となるとどちらが魅力的でしょう?
高級化路線が奏功したシチズン
シチズン時計は、2025年3月期第2四半期決算で、営業利益の通期予想を当初の予想値200億円から245億円へ、22.5%もの上方修正を行いました。修正の理由として、「主力の時計事業において、北米市場を中心に“シチズン”と“ブローバ”ブランドが計画を上回りに好調に推移したほか、自社ECの伸長と販売単価の上昇などが寄与し、収益性も大きく向上しました(原文ママ)」と決算資料にあります。
シチズン時計は、ウォッチ事業が売上全体の半分を占める中核事業です。そのため、ウォッチ事業の好不調がおおむね当社の業績を左右します。前期25年3月期の営業利益は-15.4%と二桁減益で、その要因は、「クロスシー」「レコードレーベル」などの中価格帯ブランドが苦戦したことでした。26年3月期は、「ザ・シチズン」「カンパノラ」などの高価格モデルに全振りしたことが奏功し、粗利率向上で大幅増益となりました。
さらに注目すべきは、世界的ラグジュアリーグループLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)による傘下企業「ラ・ジュー・ペレ」への出資です。ラ・ジュー・ペレはスイスの高品質ムーブメントメーカーで、2012年よりシチズングループ傘下。今回のLVMHからの資本参加は、シチズンの技術が国際的にも評価された証ともいえます。
こうした構造改革の積み重ねと、グローバルな評価の高まりが、直近の株価上昇につながっています。
セイコーは「グランドセイコー」で攻める!
一方、セイコーグループも高級路線を鮮明にしています。2024年度~2026年度の中期経営計画「SMILE145」では、グランドセイコーを中心としたプレミアムモデルへの集中投資を行い、北米・中国・欧州など海外への販売強化を掲げています。
事実、北米市場での販売回復が業績を下支えしており、価格改定によって利益率も向上。2026年3月期第2四半期のウォッチ事業セグメントは、前年同期比で売上9.8%増、営業利益14.9%増と、ともに2桁成長となっています。
ただし、セイコーはウォッチ以外にもデバイスソリューションなど複数の事業を抱えており、それらの収益構造には課題も残っています。デバイスソリューション事業に関しては、銀価格高騰の影響を踏まえ、26年3月期の通期営業利益予想を下方修正しました。さらに銀価格の上昇が続いているため、下期の業績に影響がないか不安は残ります。