はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
預金をただ銀行に眠らせておくのはもったいないと考え、さまざまな投資や保険に手を出しているのですが、自分のやり方が正しいのか、理にかなっているのかが気になっています。見直した方がよい点など、アドバイスをいただけませんでしょうか?
【現在の収入金額と支出】
自分:35歳、年収900万円(大手自動車部品メーカー勤務)
妻:35歳、年収500万円(地方公務員、現在育児休暇中、来春復職予定)
子供:4歳娘・2歳息子
支出:50~70万円/月
【今後の収入変化と特別支出】
自分:年30万円ペースで上昇中。3~4年後に課長昇進(年収約1,100万円)の見込み。課長昇進後、昇給はほぼなし。
妻:年2%ペースで上昇見込み。子供が経済的に自立するまでは仕事を続ける予定。
特別支出:2年後に700万円程度の車を買いたい。10年周期で同程度の車に買い替え予定。そのほか、現在は300万円で購入した普通車を所持(5年目)。こちらも10年周期で同程度の車に買い替え予定。
【退職後の収入・支出】
収入:確定拠出年金400万円程度になる見込み(自分)、年金(自分、妻)
支出:いわゆる、ゆとりある老後を送れる支出を想定
【保有する金融資産】
普通預金:約900万円
株:約140万円(単一銘柄のみ所持)※自社株ではない
持株会:月5万5,000円拠出(+10%補助)
投資信託:月5万円(NISA積立投信:国内株、国内債券、外国株、新興国株、新興国債、先進国リートを等分配)
国債:ブラジル・レアル3年債、年利10%、120万円分
不動産:持ち家(新築戸建)
【現在の負債】
住宅ローン:3,300万円(変動金利0.765%、35年ボーナスなし、残り29年)
【保険契約】
・生命保険
自分:260ドル/月、42歳で払込終了(終身)
妻:3万4,000円/年、60歳に払込終了(60歳まで)
・ガン保険
自分:4万3,000円/年、65歳で払込終了(終身)
妻:4万円/年、終身払い(終身)
【学資保険】
娘:14万円/年、48歳で払込終了(240万円)
息子:22万円/年、43歳で払込終了(2万4,000ドル)
【医療保険】
なし
(30代後半 既婚・子供2人 男性)
野瀬: ご質問ありがとうございます。いただいた情報を元に、90歳までのご夫婦のお金のシミュレーションを実施してみました。
ゆとりある老後は可能?
ご認識かとは思いますが、基本的に老後資金が破綻することはありません。また、ご希望されている“ゆとりある老後”も可能でしょう。理由は以下のとおりです。
・基本的にご質問者の給与が高い
・奥様もお子さんが自立するまで働くとのことで、実質的に定年の数年前までと仮定
・二人とも年金が手厚い
・上記より推測するに、2人ともまとまった退職金が出る
そのため、ここからは「ここを直すべき」というより「こうすればよりよい」というニュアンスでお金の戦略をアドバイスしたいと思います。
収入は保守的な計算でも問題ない
現状収入については十分高い水準です。私のシミュレーションでも、ご夫婦ともに3年目以降は昇給なしで保守的に計算しておりますので、これ以上のアドバイスはありません。
一方の支出面ですが、杓子定規な観点になると世間一般の平均より高いです。仮にもっと資産額を増やしたいのであれば、こちらを「節約しましょう!」となるのですが、現状の生活費に関しては特に節約の必要はないでしょう。
支出の50万円から70万円には保険の支払いも含まれていると思いますので、そのあたりへは後半の「投資編」でコメントしたいと思います。
私はどちらかというと緊縮した家計体制を推奨すると思われがちなのですが、正確には「1:お金がない人はまず節約してまとまったお金をつくりましょう」「2:それができたら好きなことに使ってもよいし、運用も検討しましょう」というスタンスです。
ご質問者の場合、すでに(1)は現在の収入によって達成可能だと思いますので、特に会計のスリム化は考えず、今のペースで貯金を続けるとよいかと思います。
現在の資産の状況を整理
次に今のペースで蓄財を続けるとして、そのポートフォリオについて少しお話したいと思います。
ご自宅もある種の不動産投資と考えると、現在の保険を除いた資産は以下かと思います。
・現金預金:900万円
・株:140万円
・投資信託:300万円
・持株会:300万円
・外貨債券:120万円
・不動産:3,300万円(ローン残高から推測)
もちろん持株会と投資信託の積立の開始時期や積立金額がわからないため、ある程度は予測になることをご理解ください。
預金残高は年齢と持家であることを考えるとまずまずです。不動産を除いた金融資産の投資比率については、現預金900万円に対して投資860万円になります。私は、「貯金と投資の比率は約40%から60%でコントロールすべし」と常日頃からお伝えしていますが、その考えに基づくと悪くありません。
あえて改善点をあげると?
基本的にご質問者の方の金融のバランス感覚はよいと思います。その上であえて改善点を探してみると、以下の6つになります。
1:持株会について
持ち株会はお勤めの会社の業績が高まれば価値が上がり、悪くなれば価値も下がります。私の知人は持株会にせっせとお金をつぎ込んでいたのですが、ある日、会社の業績が急落し多くの財産を失いました。
「野瀬さん、たった数年で自分の財産が200分の1になった経験はないでしょう?」と、当時、その方に言われたものです。
つまり、持株会にあまり多くのお金をつぎ込むと、会社の業績が傾いた際にお給料やボーナスが減るのに加え、コツコツ積み立てた株の価値も下がってしまう危険性があるということです。
もちろん会社の業績がよければドカンと儲かるのですが、今のように月5万5,000円ペースで投資を続けると勤務先と一蓮托生になってしまいます。
現在、現物株は1銘柄だけとおうかがいしておりますので、持株会の比率を少し下げ、ほかの銘柄や投資信託を購入することで投資のポートフォリオを広げるとよいでしょう。
2:株と投資信託について
現在は、1銘柄とおうかがいしておりますので、もう少し投資を増やしてもよいかなと思います。
株式投資に不慣れであれば、投資信託にしてもよいでしょう。今はバランス型のものを積立されていますので、現状の積立投資で特に問題ないと思います。
ただ、手数料だけはしっかりチェックするようにしてください。投資商品にあまり詳しくない時期に購入した商品の場合、毎年1%を超える管理料を取られていることもありますので、気をつけたいものです。
「普通じゃないこと」はしない
3:預金について
預金額は900万円とおうかがいしていますが、こちらも投資と同時に徐々に増やしておきましょう。
私のシミュレーションでは車の購入や学費などの支出はありつつも、毎年300万円前後が貯金できる計算になります。
この300万円の6割を貯金、4割を持株会を含めた株式や投資信託などに割り振っていけばよいでしょう。
4:新興国債券について
新興国債券はこれ以上増やさなくてよいと思います。投資信託に新興国債も含まれておりますので、直接これ以上の金額を振り分ける必要はないでしょう。
繰り返しになりますが、基本的にご質問者の家計は「普通にしていれば絶対に大丈夫」です。では、なにがマズイかというと「普通じゃないこと」をした場合です。
ドカンと海外不動産に投資したり、預金の大半を外貨預金にしたりする場合です。このままで問題ありませんので、大きなギャンブルを打つ必要はありません。
5:不動産について
インフレについても、現在不動産を3,000万円以上持たれているので、ある程度、リスク軽減できると思います。
住宅ローンとともに団信保険にも加入されていると思うので、不幸にもご質問者がお亡くなりになったとしても、残されたご家族が路頭に迷う可能性は低いと思います。
ご質問者は個人属性が高いと思いますので、今後、預金や投資残高の増加とともに「不動産投資」の選択肢も出てくると思いますが、その時は「将来、子供が独立して出て行ったあとに自分が住んでもよいもの」という視点を持ってください。
不動産実物投資には、最悪、その家に自分が住めば損しないという手段が残されています。「自分が住みたいか・住めるか」という視点を持つようにしてください。
家族に最悪の不幸が起こっても
6:保険について
保険についてもおおむね問題は見受けられません。ご質問者の保険は少し高いですが、もうすぐ払込みが終わりますし、保証は終身であることを考えると税制上の優遇も相まってこのレベルであればアリかと思います。
また、がん保険も価格は抑えめ、学資保険もほどほどのお値段であるうえ、払込み期間もお子さんの就学期間にピッタリ合致しますので、問題は見受けられません。
ただ1点、奥様の生命保険が高いように思います。毎月の支払が高い上、支払期間も長いので、折を見て見直しされたほうがよいかもしれません。一家にとって最も不幸なのは、事故などでご質問者と奥様がお子さんを残して亡くなることです。
しかし、持ち家と団信、ご質問者の生命保険、手厚い学資保険の存在を考えると、奥様の保険はそれほど手厚くなくてもよい気がします。
もちろん、満期時にたくさんの返戻金がもらえる契約かと思いますが、ほかへの乗り換えを考えてもよいかもしれませんね。
以上、私のシミュレーションから気づいた点になります。ご参考になりましたら幸いです。