はじめに
ボールも相場も「再び戻る」
ここまで説明すれば、球技のラリーについても「隠れたイメージ」が推測できるのではないでしょうか?
国語辞典におけるラリーの項目には「(1)ネットを挟んで行う球技で、球を打ち返し攻め合うこと」(岩波国語辞典・第7版)とあります。言い換えると「二人の選手の間を球が行ったり来たりする状態」であるともいえます。その往復のうち1回分が「球が再び戻ってくる様子」なので、ラリーと表現されているわけです。あくまで語源的な観点では「球が何度も往復する様子」がラリーなのではなく、「球が1回往復する様子」がラリーなのかも知れません。
この「再び戻る」イメージは、相場のラリーにも適用できます。ここでちょっとした想像をしてみましょう。
株式相場のグラフ(例えば日経平均株価のグラフ)を思い出してください。このグラフの上の方には卓球選手Aがいて、下の方には卓球選手Bがいるとします。私たち観客は、卓球台や選手たちを真上から見下ろす位置にいます。選手Aがグラフの下の方の向かって放ったボールが、もし選手Bの打ち返しによって選手Aに戻ったならば、それは「相場のラリー」と言えるのではないでしょうか。
自動車競技をラリーと呼ぶ謎
ここまでの考察で「卓球のラリー」と「相場のラリー」のつながりは判明しました。こうなるといよいよ謎に思えてくるのが「自動車のラリー」の存在です。もしラリーの中核的意味が「再び集まる」「再び戻る」とするなら、自動車のラリーも「どこかに戻る競技」でなくてはなりません。
ここで自動車のラリーについて簡単に復習しましょう。国語辞典によると自動車のラリーとは「(3)指定された区間を一定の条件で走る自動車競技」(広辞苑・第7版)とあります。この定義のうち「指定された区間」なるものが「出発地点に戻るコース」ならば「再び戻る」条件を満たします。
しかし実際には「再び戻らない」大会も少なくありません。例えば今年1月に開催された第40回ダカールラリーの場合、出発地がペルーのリマで、到着地がアルゼンチンのコルドバでした。つまり実際のコース設定は「再び戻らない」場合もあるのです。そんな競技を、私たちはなぜ「ラリー」と呼んでいるのでしょうか?