はじめに
「ある水曜日、サギ君は5万円が必要になりました。そこでサギ君は、昔からの友人であるカモ君にこう持ちかけました。『5万円を貸してくれない?次の土曜日には返すから』。こうしてサギ君は、カモ君から5万円を借りることができました。ところがサギ君は金欠が解消しないまま土曜日を迎えてしまったのです。そこでサギ君は、やはり昔からの友人であるネギ君にこう持ちかけました。『5万円貸してくれない?次の水曜日には返すから』こうしてサギ君はネギ君から5万円を借り、カモ君には5万円を返しました。しかしサギ君の金欠はまだ解消しません。そこでサギ君は次の水曜日にカモ君を呼び出して……」
これはベンガル人作家チャクラボルティの短篇『カネが必要なら借りろ』の冒頭を筆者が独自に翻案したものです(参考:日経サイエンス2014年9月号「経済に潜むポンジ詐欺」)。物語はこのあと水曜日のやりとり(カモ君から借りた5万円でネギ君からの借金を返す)と土曜日のやりとり(ネギ君から借りた5万円でカモ君からの借金を返す)とが不毛に繰り返されることになります。しかしある出来事で物語が急展開するのですが……続きは後ほど。
今回の記事では、この物語を軸にして、海外発信の経済記事でよく登場する言葉「ポンジスキーム」(Ponzi scheme:詐欺的な資金集め)について、掘り下げてみます。
ポンジスキームとは?
最近、国際経済の要人による発言で、ポンジスキームという言葉をよく耳にします。多くは、ビットコインなどの仮想通貨について批判する発言です。
例えば世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は「仮想通貨の圧倒的多数は基本的にポンジ・スキームだと聞いている」(2018年2月7日/ブルームバーグ同8日記事より)と述べています。国際決済銀行(BIS)のアグスティン・カルステンス総支配人も「(ビットコインは)バブル、ポンジ・スキームおよび環境破壊が混じったもの」(同6日/ロイター同7日記事より)との批判を展開しました。ポンジスキームの意味を知らない人でも、以上の発言を俯瞰することで、これが悪い意味だと理解できるでしょう。
実際、ポンジスキームとは「詐欺手法のひとつ」を表します。したがって以上の発言者たちは、いずれも「ビットコインは詐欺である」と批判しています。
ではポンジスキームとはどういう種類の詐欺なのでしょうか?そしてその詐欺に、どうしてポンジスキームという名前が付いているのでしょうか?
カモへの配当を、ネギからの出資で払う
短篇『カネが必要なら借りろ』でサギ君が持ちかけていたのは「借金」でした。しかしポンジスキーム界のサギ君が持ちかけるのは「投資」です。「5万円投資してくれたら、毎月1万円の配当を払うよ」とか、そんな類(たぐい)の話を持ちかけるのです。
ここではサギ君がカモ君に出資話を持ちかけたとしましょう。しかもサギ君はカモ君から預かった出資金を「一切運用する気がありません」。それでも最初の5ヶ月は、カモ君からの出資金5万円を切り崩しながら、カモ君へ毎月1万円の配当を支払うことができます。しかしそれだけでは6ヶ月目に出資金が底をついてしまいます。
そこでサギ君は、ネギ君にも出資話を持ちかけることにしました。その際サギ君は「カモ君には毎月配当をきちんと支払っているんだよ」と説明します。その説明に嘘はないので、ネギ君はサギ君の言い分を信じてしまいました。こうしてサギ君は、まんまとネギ君からも出資金を受け取ることに成功するわけです。そこからの2ヶ月間、サギ君はカモ君とネギ君への配当を各1万円(計2万円)払うことが可能になります。
この仕組みは、サギ君が新たな出資者を継続的に集めることさえできれば、破綻なく継続できます。さらに出資者の人数が多ければ、それだけサギ君がピンハネする金額も大きくできます。しかしこの仕組みは新たな出資者が集まらなくなると、一気に破綻への道を歩むのです。
もうお気づきのことでしょう。ポンジスキームとは日本語でいう「自転車操業」や「出資金詐欺」に近い意味の言葉なのです。