はじめに

店舗環境を大幅に改善

7月には70億円を投じて、店舗システムを大幅に刷新する計画。ハンディターミナルをスマートフォンに切り替えて、アルバイトの学生にも使い勝手が良く、覚えやすいものに切り替えます。また、釣り銭機のスピードを1会計当たり2秒ほど改善し、レジ作業を効率化させます。

キッチンディスプレーも各店舗に5台ずつ設置。これまではプリントされた紙に提供メニューなどを書き込んでいましたが、そうした作業の改善が期待されます。また、商品の販売量から食材が自動で発注されるシステムも導入。マネージャーの負荷が下がり、1店舗当たり2~3時間の労働時間が短縮されるといいます。

すかいらーくでは昨年、初めて5万人のアルバイトが採用できました。しかし、離職率も高く、トータルの在籍数としては微増にとどまりました。安定的な成長のためには、店舗網の拡大が不可欠。しかし、それには店舗スタッフの増加が欠かせません。

「店舗の“余裕”として出てくる分は、生産性の向上に充てる。利益に落とし込む方針は取りません」と谷社長。店舗システムの刷新以外にも食器の数を24種類から15種類に減らすなど、店舗環境の改善を図ることでスタッフの定着率引き上げを目指します。

クーポンがグレードアップして復活

既存店の底上げ策は、これだけではありません。「ウーバーイーツのような多業態のエリア配送」(谷社長)を拡大させることで、宅配サービスの強化を進めます。

宅配サービスの拡充で既存店の底上げを狙う(写真:すかいらーく会社紹介動画より)

これまでも2015~2017年の平均で売上高が約7%伸びてきたという宅配サービス。2018年はこれを約11%まで高める計画です。そのための施策が、ガストだけでなく、ジョナサン、藍屋、夢庵などグループの主要業態のメニューを一括して宅配する新サービスなのです。

すでに3エリアで実験を始めており、これらのエリアでは売上高が15~30%増加しているといいます。年内にソフトウエア開発が完了する予定で、それに合わせて多業態エリア配送を全店舗に拡大。「成長の大きな源泉」(谷社長)にする狙いです。

さらに、3月からはグループ共通のアプリを投入するのに合わせて、大幅に削減したクーポンの配布を復活させます。このアプリでは、顧客を800種類のライフスタイルに分解したうえで、それぞれのニーズに沿った形で、クーポンなどの告知が自動配信されます。

たとえば、気温が30度を超えた日には、過去にグループ店舗でビールを飲んだことがあるお客さんにビールのクーポンが届く仕組みです。あるいは、雷雨の日には宅配のクーポンが届いたり、誕生日にはスイーツのクーポンが送られてくる、といった具合です。

ライフスタイルに寄り添えるか

「クーポン復活がフルに効いてくるのは4月以降。7月のシステム刷新も店舗には負荷がかかる」(谷社長)見込みで、2018年度も前半は収益が停滞すると予想されます。ただ、通年では営業利益で2.1%増と、反転攻勢を狙っています。

外食産業にとっては、2019年10月に予定されている消費税率の引き上げや、2020年の東京オリンピック後の景気不透明感、2022年に始まる団塊世代の後期高齢者入りなど、厳しい外部環境が想定されています。

「日本の胃袋が小さくなっていく中で、1店1店の品質・満足度を上げていくことが、企業の存続・安定成長のために最も必要な基本方針」。谷社長はそう言い切ります。

なお、2017年度業績の足を引っ張った一因である 株主優待の拡充ですが、2018年度もさらに個人株主が増加することを見込んで、2億円ほどの利益引き下げ要因になる計画です。それでも、谷社長は「株主優待で、すぐさま大きな変更は考えていません」とのこと。そして、会見の最後をこう締めくくりました。

「国民の3分の2はデフレの時代を長く過ごしています。景気が良くなっても、消費に回るとは考えにくく、自分のライフスタイルに合ったものだけを使う。そのライフスタイルにフィットしたものを提供できる企業だけが、景況感に沿った業績を謳歌できます」

はたして、すかいらーくもシステム刷新や多業態宅配、クーポン施策の見直しによって、顧客のライフスタイルに寄り添う企業になれるのか。2018年度の下半期の業績は、今後の浮沈を占ううえで重要な指標となりそうです。

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