はじめに

JPY(日本円)やUSD(米国ドル)など、アルファベット3文字で構成される通貨コード。その仕組みと変遷を分析する記事を、前後編の2回に分けてお送りしております。後編の今回は、通貨コードの「変遷」について紹介しましょう。面白いことに、通貨コードの変遷を辿ることは国家・経済・通貨などの「現代史」を辿ることと同義なのです。

ここで前編で紹介した、通貨コードのフォーマット(記述方法)を簡単に復習しましょう。第一に通貨コードは原則「英字2文字の国名」と「英字1文字の通貨名」を組み合わせた形です(以下、ルール1と呼ぶ)。例えばJPYは日本を意味するJPと、円を意味するYの組み合わせ、といった具合です。

第二に、複数の国で共通の通貨を用いる場合は、例外的に「X」と「英字2文字」を組み合わせます(同ルール2)。このような通貨コードには、例えばアフリカ諸国で使用されるXAF(CFAフラン)などがあります。ひとまずこの2つのルールだけを把握しておけば、以降の話題が理解できると思います。


ユーロの通貨コードは例外

世界のメジャーな通貨といえば、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの4通貨でしょう。このうち米ドルの通貨コードはUSD、日本円はJPY、英ポンドはGBPと表記します。では、ユーロの通貨コードは何でしょうか?

改めて復習すると、ユーロ(Euro)とはヨーロッパ各国(EUの加盟国を中心とする国・地域)で使用されている共通通貨のことです。もしEU(欧州連合)が地域共同体ではなく単一の主権国家ならば、ユーロの通貨コードはルール1により国名2文字+通貨名1文字(例えばEU+E)となります。したがってユーロは「EUE」と表記するのが筋でしょう。しかしEUは国ではありません。

実際のユーロは複数の国で使用される通貨です。であるなら、ユーロにはルール2が適用されるべきでしょう。その場合、X+2文字、例えばX+EUのように表記されるのが普通です。ところがユーロの通貨コードは「XEU」でもないのです。

勿体つけて書きましたが、ユーロの通貨コードはなぜか「EUR」と表記することになっています。Euroの先頭3文字をそのまま使った表記です。この表記は通貨コード(ISO 4217)の数少ない例外とされています。

廃止コードに眠る「ユーロ誕生」の軌跡

ところで通貨コードの中には、過去に定められていたけれども、現在は廃止されてしまったコードが存在します。そのようなコードのことを、ヒストリカルカレンシーコード(historical currency codes、以下ヒストリカルコード)と呼びます。

そんなヒストリカルコードの中に、実は、先程推測した「XEU」という通貨コードが存在していました。これは1979年から1998年にかけて使用されていたコードで、欧州通貨単位・エキュ(ECU、European currency Unit)を表しています。

このエキュとは、かつてEU(またその前身であるEC=ヨーロッパ共同体)が現在の共通通貨ユーロの準備として用いていたバスケット通貨(※)のこと。フランス・フランやドイツ・マルクといった通貨の為替レートを相互に固定したうえで導入していた共通通貨単位でした。1999年に非現金取引を対象にユーロが導入されたことで、その役割を終えています。

※複数の通貨価値を加重平均して作られる通貨

つまり通貨コードの歴史に刻まれているXEUというコードは、エキュの通貨コードであり、ユーロ導入の名残(なごり)でもあったのです。このように通貨コードの変遷には、国家・経済・通貨の歴史が刻まれているのです。

ちなみにXEUの先頭がXということは「これが複数の国で使われる」ことを表しており、そのあとがEUということは「これが欧州通貨単位(European currency Unit)の略である」ことを表しています。これは、ルール2ですね。XEUは現行の通貨コードEURよりは、よほど通貨コードらしい「顔つき」をしています。

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