はじめに
刻まれた「デノミ」の記憶
筆者の知る範囲で最新のデノミは、アフリカ西部のモーリタニアで今年1月1日に実施されたばかりです。モーリタニアの通貨単位はウギア(Ouguiya)というのですが、旧10ウギアを新1ウギアに切り替える措置が行われたのです。これに伴い通貨コードの方も、旧ウギアを表すMROに、新ウギアを表すMRUが加わることになりました。
前述したスリナムやスーダンの事例では、実質的デノミに伴い通貨名称も変わっていました。しかしながら、モーリタニアの場合、新旧の通貨名称に変化がありません。このような通貨名称に変化がない場合であっても、通貨コードの方は新旧を区別するために別の表記を与えることになります。
したがってモーリタニア・ウギアの場合はMROに加えてMRU、メキシコ・ペソはMXPに加えてMXN、トルコ・リラはTRLに加えてTRY、ロシア・ルーブルはRURに加えてRUBというコードを新設することになったわけです。
刻まれた「ハイパーインフレ」の記憶
最後に、筆者が個人的に「通貨コード界の強者(つわもの)」だと思っている事例を紹介して終わりにしましょう。詳しい話は後回しにします。まずは、とある国の通貨コードの変遷をご覧ください。
その国ではもともと通貨ZWCを使っていました。この地で、白人支配からの独立による新国家が成立。新通貨ZWDが登場しました。しかしこの新通貨は、のちにZWD→ZWN→ZWR→ZWLと新コードを次々追加する事態に陥ってしまいます。最終的にはZWLすら廃止。USD、ZAR、EURなどの通貨を法定通貨として使い始めた、というお話です。
勘の良い方ならお気づきかもしれません、以上はアフリカ南部の国、ジンバブエ(国コードZW)の通貨史を表現した文章なのです。
白人による支配国家ローデシアが、イギリスから独立してジンバブエになったのが1980年のこと。その際、通貨もZWC(ローデシア・ドル)からZWD(ジンバブエ・ドル)に変わりました。ところが2000年代に入り極度のインフレが進行。2006年に最初のデノミ(通貨コードZWNの導入)、2008年に2回目のデノミ(同ZWR)、2009年に3回目のデノミ(同ZWL)を実施した挙句、同年中にジンバブエ・ドルの無期限発行停止がアナウンスされたのです。現在ジンバブエでは、米ドル(USD)、南アフリカ・ランド(ZAR)、ユーロ(EUR)などのほか、流通実態は分かりませんが日本円(JPY)も法定通貨として認められています。
それにしても、ジンバブエ・ドルは高々3年の間に3つの新しい通貨コードを食いつぶした挙句、そのすべてをヒストリカルコードの枠におさめてしまったのです。かの国を襲ったハイパーインフレが如何に凄まじいものであったのかが分かります。
このように通貨コードの変遷には、国家・経済・通貨の「現代史」が刻まれています。おそらくこの先の未来も発生するであろう「国家の分裂や統合」あるいは「通貨の廃止や新設」といった出来事もまた、通貨コードがその様子を克明に記録していくことになるでしょう。