はじめに

新年度となりました。街には一目で新入社員とわかる初々しい若者の姿が目立ちます。今年の桜は開花が早く、首都圏ではすでに葉桜になっていますが、それでも新たな年度の始まりに色を添えてくれています。

新緑が目に眩しい季節になりました。春は人の気持ちをとてもフレッシュにさせてくれます。この「フレッシュな気持ち」というのが重要です。「景気は気から」という言葉がありますが、人の気持ちが景気を左右するのです。

景気の鏡である相場も同じで、人の気持ちが重要です。投資家の気持ちがフレッシュになれば、当然前向きでポジティブな投資行動につながると考えられるからです。


なぜ4月は株価が上がりやすいのか

下表は日経平均株価算出開始以来の1949年から今年の3月末まで月別の騰落率・上昇割合をまとめたものです。

1位が1月、2位が4月です。1月は暦年の始まりで、4月は年度の始まり、どちらも「フレッシュ」であること、このうえありません。「新しい年が始まる」「新しい年度が始まる」――その昂揚感が株価のパフォーマンスに反映されているのだろうと思います。

4月のパフォーマンスが良い理由は、もちろん、そうした「精神面」だけの話ではなく、新年度入りで年金資金の新規配分の流入や配当の再投資などで日本の機関投資家には買いが発生しやすい月であるという需給面の要因があります。

また、最近よく報道されていますが、外国人投資家は4月に日本株を17年連続で買い越しています。米国などで税還付の影響で、この時期にファンドへの資金フローが増えることが背景だと言われています。

「アノマリー」はどこまで有効か

ただ、こうした要因と見られていることは「はっきりとした事実」ではありません。理由が必ずしも明確でなくても、同じようなパターンが繰り返し見られることを「アノマリー」といいます。1月や4月のパフォーマンスが良いというような季節性のパターンは典型的なアノマリーです。

しかし、アノマリーは明確な理由があるわけではないところがアノマリーたるゆえんですから、そのパターンは盤石ではありません。

たとえば最近まで注目されてきたアノマリーに「月初の第一営業日の株高」というものがありました。月初の株高は2016年7月から今年の2月まで20ヵ月連続で起きました。これも、積み立て投資を手掛ける個人の資金が月初に買い付けられる傾向があり、需給面での支えになっていると背景が説明されていました。

しかし、このアノマリーが非常に有名になったのと同時に、3月には月初の株高は途切れてしまいました。4月初日も途中までは日経平均は上昇して推移しましたが、引けにかけてマイナスになり、月初の株高は復活しませんでした。

『ブラックスワン』で有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏は、別の著書の中でこんなことを述べています。

「あるトレーダーが月曜日に株が上がるというパターンを発見したとする。ところがそんな単純なパターンは誰でも気が付くから、月曜日に株が上がるなら金曜日に先回り買いしようとする投資家の行動でパターンは均されてしまうだろう」

季節性や日付のパターンは単純でよく知られやすいために、そのパターンを利用して利益を上げようとする投資家によって、効果が薄まってしまうものかもしれません。実際に、4月の成績は、長期でみれば前掲の通りですが、2000年以降の18年間では10回上昇、8回下落で、上昇割合は55%とわずかに5割を超えるばかり。これではフィフティ・フィフティと大差ありません。

投資家の変化が新年度効果に影響

4月新年度効果が薄れたのは、季節性のパターンが知られてきたことに加え、投資家の変化もあるでしょう。

冒頭で「人の気持ちが重要」と述べましたが、株式を売買するのが「機械」であったらどうでしょう。機械は新年度入りでフレッシュな気持ちになることはありません。株式市場でアルゴリズム取引やAIによる運用の比率が近年増加しています。4月新年度効果が薄れたのは、季節を感じない機械による売買が増えてきたことと関係があるのかもしれません。

さて、「新年度相場の投資戦略」と題して述べてきましたが、個人投資家の読者へ結論を申し上げます。

「新年度相場の投資戦略」などというものはありません。なぜなら、新年度入りのタイミングで気をつけておくべきことというのは毎年毎年変わるからです。機関投資家は新年度入りのニューマネーで買ってくる場合もあれば、反対に期初に益出しをするために売りからスタートする場合もあります。「新年度入りはこれだ」というパターンはないのです。

そしてなにより、個人投資家の最大の強みは、決算期に縛られた投資をする必要がないということです。決算期がないのだから、新年度を意識する必要もないのではないでしょうか。

(文:マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆)

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