はじめに
パターン4:既存の「通貨コード」で命名する
4つめのパターンは「通貨コード」で命名する方法です。
ここでいう通貨コードとは、国際規格ISO 4217が各国通貨に割り当てている「アルファベット3文字のコード」のこと(参考:お金のことば「通貨コード」前編・後編)。日本円の場合はJPY、米ドルの場合はUSDと表す、あの表記のことです。この表記を官製デジタル通貨の名前として引用するパターンも存在するのです。これは前述の「通貨名を引用するパターン」の亜種といえるかもしれません。
例えばポーランドの国立研究所のチームが開発中とされるデジタル通貨は「dPLN」と呼ばれています。このうちdはデジタル(digital)のこと。PLNはポーランドの通貨、ズロチ(złoty)を意味します。実はぽポーランド国内では、通貨表記としてPLNを用いることが多いそうなので、国民的にも違和感のない命名なのかもしれません。
またカナダで実証実験は進む官製デジタル通貨は「CADコイン」(CAD-coin)と呼ばれています。このCADも、カナダの通貨であるカナダ・ドル(Canadian dollar)を意味します。
さらに東カリブ諸国が共通通貨としている東カリブ・ドル(East Caribbean dollar、通貨コードはXCD)にもデジタル化を検討する動きがあり、仮称が「DXCD」(つまりDigital XCD)と呼ばれているのです。
パターン5:「独自」に命名する
そして、最後となる5つめのパターンは「独自」の命名です。国名・中央銀行名・通貨名・通貨コードのいずれも属さない、オリジナルの命名パターンもわずかながら存在するのです。
その代表例はベネズエラが今年2月に導入して話題になった官製デジタル通貨「ペトロ」(Petro)でしょう。同国の既存通貨、ボリバル・フエルテとは別に導入するデジタル通貨です。
このデジタル通貨の最大の特徴は、ドルやユーロで購入が可能で、同国の持つ最大の資源である石油の埋蔵量を裏付けとしていることです(注:石油との交換を保証しているわけではない)。ペトロという名は、石油を意味するペトロリアム(petroleum)に由来します。
近年、石油価格暴落に伴う経済的混乱から極度のインフレ状態にあるベネズエラ。同国が起死回生の奇策として導入したのがペトロでした。しかし同国の独裁化を懸念する米国は、経済制裁の一環として米国におけるペトロの購入を禁止。ペトロは早くもその行く末が危ぶまれる存在となっています。
いっぽう米ドルを通貨として用いるマーシャル諸島も、デジタル通貨「ソブリン」(Sovereign)の発行を明らかにしています。このソブリンは主権者などを意味する言葉で、政府系ファンド・国富ファンドを意味する「ソブリンファンド」(Sovereign Wealth Fund)などの言葉でも有名ですね。この場合も、国名・中央銀行名・既存通貨名・既存通貨コードとは関係ない命名となっています。
命名に隠れた「意図」とは?
このように世界各国で検討・開発・導入されている官製デジタル通貨は、国名・中央銀行名・既存通貨名・既存通貨コード・オリジナルのいずれかのパターンによって命名が行われていることになります。
ここで気になるのは「命名のパターン」と「通貨の特徴」に何らかの相関があるのか?ということでしょう。筆者の見方では、2種類の相関を指摘することができます。
第一には「既存通貨と同じ名前を持つ新通貨は、既存通貨と一対一で交換できる可能性が高い」かもしれません。というのもeクローナ、eペソ、クリプトルーブルといった名前の新通貨が、いずれも既存通貨との等価交換を前提として検討が進んでいるからです。逆に言えば、等価交換を意識させたいがために、わざわざ既存通貨名を引用しているのでしょう。
第二には「独自名の新通貨を発行しようとしている国は、経済的な一発逆転を狙っている」かもしれません。インフレに悩むベネズエラがペトロを導入し、自国通貨を持たないマーシャル諸島がソブリンを導入するところから、筆者はそのような雰囲気を感じ取っているところです。
今後登場する官製デジタル通貨の行く末を占う際にも、このような視点も参考にしてみると面白いのではないでしょうか?