はじめに
「グループを大きく変えながら、基本理念は変えず、新しい時代の流通を実現できるような企業群になっていきたい。ご支援をよろしくお願いします」――。イオンの岡田元也社長が自らの発言をこう締めくくると、一部の株主から拍手が沸き起こりました。
5月23日午前10時から千葉市の幕張メッセで開かれた、イオンの株主総会。昨年よりも200人ほど多い、約1,900人の株主が出席しました。
1時間30分強に及んだ今年の株主総会。多くの時間が割かれたのは、岡田社長による経営方針の説明と、それらを受けた株主との質疑応答でした。一体どんなやり取りが繰り広げられたのでしょうか。
環境変化を詳細に解説
今回の株主総会で岡田社長が株主に語ったメインテーマは、昨年末に策定した2019年度までの中期経営計画について。策定直後にマスメディアや機関投資家向けに会見を開いて説明していましたが、株主総会に出席している株主の大半は個人投資家ということもあり、プロ向けの説明とは少しアプローチの異なる説明がなされました。
最初にまとまった説明があったのは、イオンを取り巻く環境の変化。消費者の中で時短ニーズ、低価格志向、健康志向が高まる一方、ネット専業プレーヤーの台頭や業態を超えた戦いによって、競争環境が激化している現状に言及しました。
「コンビニが生鮮を置き、ドラッグストアが食品をやる時代です。一方で、ネット企業がもたらしたショッピングパターンの変化もあります。既存の小売業に対する不満が増大していると感じています」(岡田社長)
そのうえで、グループ全体を大きく変えていく必要があると強調。店舗づくりや商品企画、販売手法など各種フォーマットの変革について方向性を示したうえで、設備や人材に対してどんな投資を行っていくのか、説明しました。
ただ、これらはいずれもプロ向けの説明会でも触れられていた内容。株主総会で投資家層を意識して説明されたのは、統治体制に関するものでした。より柔軟で、よりスピーディーな体制を作り上げるため、1年をかけて最大の重要事項として、社外取締役とともに取り組んでいくといいます。
「売上高は8兆円規模になり、国内でも十指に入る大きさになりましたが、世界の小売業で見ると決して大きくない。一方で、大きくなったがゆえの不都合も、いろいろと抱えています。イオンならではの“あり方”を確立していきたい」(岡田社長)
「食のECではイオンに強みがある」
各種の事業改革の説明についても、イオンの利用客でもある個人投資家を意識した色彩が強い印象を受けました。
たとえば、デジタル改革について。プロ向け説明会では、EC(ネットショッピング)におけるマーケットプレイスの構築や店舗のデジタル化など、ビジネス寄りの改革の説明に重きが置かれていました。
これに対して、今回の株主総会では、ECそのものに対するイオンとしての取り組みが中心。日本のEC市場は現在15兆円と、過去5~6年で倍増したものの、食に関するEC比率は2%と、英国の7%、フランスの5%からは見劣りする現状が説明されました。
そのうえで、鮮度の高い商品を扱うためにさまざまな設備を用意しないといけない食品と、それ以外の商品とでは、参入障壁が異なると解説。米国でアマゾンがホールフーズ・マーケットを買収した背景にも、こうした事情があることに触れました。
「逆を言えば、イオンには強みがあるということ。1万7,000店舗への物流網があるので、配送コストを抑えることができます。クレジットカードや電子マネーで、延べ1億人の顧客情報もあります。食品だけで5兆円を販売し、日本最大のシェアを持っています。オンラインで食品をやっていくのに良い位置にいるのです」(岡田社長)
こうした現状認識を踏まえて、現在は利用客が30品目を購入するのに平均28分を要しているネットスーパーを改革し、競合よりも短い平均17分で購入手続きが完了するよう、各種の見直しを進めていくといいます。
スーパーは「食のSPA化」を推進
個人投資家を意識したようなプレゼンは、さらに続きます。
今、世界のスーパーマーケット(SM)業界では大きな変化が起きており、世界的な大手メーカーの商品が苦戦する一方、クラフトビールやナチュラルチーズなど「ナチュラル」「フレッシュ」「ローカル」といったキーワードの商品が伸びているそうです。
「これはイオンにとって大きなチャンス」(岡田社長)。自社で商品の企画・調達から製造・加工、配送、販売までを一気通貫で展開する「食のSPA(製造小売業)化」を進めるといいます。
そのためには、それぞれのエリアで効率的な物流網を構築することが不可欠。しかし、現在はグループのSM20社が各地に点在しており、それぞれが個別に対応するのではSPA化は困難。そこで、グループのSMの再編に向けて、今年度中にスケジュールを確定させたい意向です。
「全体で8社程度に集約し、それぞれの地域で最も強い、SPA化ができるSMに変えていきたいと考えています」(同)