はじめに
最終的には「人や組織などの価値」になる
そして証文を意味する沽券が「人や組織などの価値や体面」を表すようになった経緯は、簡単に言えば、以下のようなものです。
まず第一段階として、沽券は「証文」だけではなく「売価」を意味する言葉としても使われるようになりました。沽券に土地の売価が記されていたことが由来とされます。この意味の変化によって、例えば「沽券はいくら?」(売価はいくら?)とか「沽券が高い」(売価が高い)といった表現も成立するようになりました。これは遅くとも江戸時代には発生していた意味でした。
そして第二段階として(つまり現時点での最終段階として)、沽券は売価を意味する言葉から「人としての価値・体面」を意味する言葉にも変化したのです。そしてこの意味の変化によって、例えば「沽券が下がる」「沽券が落ちる」(いずれも「品位が下がる」という意味)、または「沽券にかかわる」(品位や体裁に関わる)という成句も登場したのです。このような意味・成句は遅くとも明治時代までには登場しており、これが現代の日本語にも残っているわけです。
以上が、沽券の辿った歴史となります。あらためて復習すると「土地の証文」を意味する言葉が、「価格」を表すようになり、最終的には「人や組織の価値」を表すようになったわけです。
それにしても昔の人は、よもや「トイレの話題で沽券が登場する時代がくる」などとは、微塵も思わなかったかもしれませんね。