はじめに

金融の世界では、投資を成功させるために日々緻密な計算やプログラミングを行う専門家がいます。それが「クオンツ」という職業で、金融機関や投資家の利益の源泉ともなる重要な仕事のひとつです。

ここではロボアドバイザー「THEO(テオ)」を提供する「お金のデザイン」で、クオンツを務める東海林紘氏に、その仕事と数学の専門家である彼らの眼から見た金融の世界について話をうかがいました。


金融工学の専門職「クオンツ」の仕事にも2種類ある

ーー「クオンツ」という職業は一般の人にはなじみの薄い仕事です。具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか。

東海林: クオンツと言っても、証券会社で働く人と運用会社で働く人がおり、どちらで勤務するかによって仕事内容は大きく異なります。

証券会社のクオンツは、主にデリバティブの分析やモデルづくりを担います。デリバティブとは株式や債券、外貨やコモディティといった基本となる「原資産」から派生した金融商品のことで、先物やオプション、スワップといった非常に複雑な取引です。原資産の価格変動に伴うリスクをヘッジ(回避)するために生まれた商品で、原資産を取引する機関投資家や企業の多くはデリバティブ取引を合わせて行っています。

デリバティブは、株価のように単純な需給だけで価格がつくものではありません。たとえば、90円のデリバティブを顧客に100円で売ると会社は10円の利益を得られるわけですが、この儲けを確定させるには複雑なプロセスを経る必要があります。デリバティブ価格は市場環境によって激しく変動するうえ、満期があり、その長さもそれぞれ異なります。30年満期の商品であれば、満期までの30年間のトレードを設計し、10円の利益を確保する必要があるのです。そのためのさまざまなロジックやモデルを開発するのが証券会社のクオンツの仕事です。

一方、投資信託を組成したり、顧客の資金を運用する運用会社のクオンツは、「どうしたらより良い運用ができるか」という、より投資家に近い目線で研究開発を行っています。運用成績を上げるために、さまざまな統計や数理的な手法を使って投資対象のリスクやリターンを分析し、シミュレーションしているんです。

ーーとても難しそうな仕事ですね。どんなバックグラウンドを持つ人が多いのでしょうか。

高度な数理の知識が必要となるので、主に大学院の数学科を修了した人の進路となります。大学院の数学科というのは意外とつぶしがきかないもので、専門分野を生かして働くには、クオンツとして金融業界に就職するか、博士課程に進んで研究者を目指すか、のせいぜい二択しか選択肢がありません。大学の研究者のポストは狭き門で道のりも険しいので、社会人として早く自立しようと考えるなら、自然と金融機関に就職する人が多くなります。

ーー東海林さんは、お金のデザインという運用会社のクオンツを務めていらっしゃいますね。ずっと運用畑を歩んでいらしたのでしょうか。

当社に来る前は3社の証券会社を経験し、10年ほどデリバティブの仕事をしていました。大学と大学院で確率論を専攻してきたので、クオンツはその知識や経験をダイレクトに生かせるうってつけの仕事でした。いずれの証券会社でもデリバティブ取引を担当していました。

当社ではアルゴリズムが個人投資家一人ひとりに最適なポートフォリオを算出し、自動運用するロボアドバイザー「THEO(テオ)」を提供しています。私はアルゴリズムが導き出した資産配分に従って、ETFを売買するトレーディングシステムの開発を担当しています。たくさんのお客さまのトレードを正確に、速く、そして最適に執行していくことが仕事です。

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