はじめに

“バブル崩壊後最高値”の立役者は誰?

2018年の6月から11月30日までの部門別売買状況(東証一部)と、日経平均株価の比較を見てみましょう(下図)。折れ線グラフは、日経平均株価(週次、終値)の水準を示しています。棒グラフは、その週でどれくらいの金額が買い越し、あるいは売り越しになったかを積み上げて示しています。そのため、棒グラフの長さが短い場合は、金額が少ないというよりも、むしろ同じ参加者の間で売買が拮抗していると見るべきです。


 
まずは、図 の(1) から、相場の流れを見ていきましょう。これまで、下値を叩いていた海外投資家が買いに転じたタイミングで、日経平均株価は大きく上昇を始めました。これに伴い、法人と個人は売り越しに転じています。

(2)のタイミングでは、一旦上昇が落ち着いたタイミングで、逆張り派の「個人」と「法人」が買いを打診し始めていますが、順張り派の海外投資家や自己取引は売りに転じており、実際の株価も大きく下落しています。週次の大引け時点の株価によって、買い越しまたは売り越し金額が多い主体のどちらがその時の相場を牽引しているかがわかります。そうすると、直近の相場は順張り派に軍配が上がると考えられます。

現在は(3)ですが、一般的に12月は年末へ向けて流動性も低くなり、個人投資家や機関投資家の間でも、利益確定の売りや損出しといった資金繰り要因での取引が発生する時期でもあります。そのため、「個人」の動きもそれまでの規則的な逆張りが確認しづらく、売買が拮抗しているように思われます。そのため、足元では、大きな動きが見られない状況になっています。

それでは、今後の動きはどうなっていくと考えられるでしょうか。今回は、市場の売買シェアが高く、市場を牽引している様子が確認できた「海外投資家」を深掘りする事で手がかりを見つけてみましょう。

原油価格が海外投資家を操っている?

海外投資家の中でも政府系投資ファンドは、近年著しく運用資産を増加させています。これらの多くは、天然資源の収益を根拠として運用されているという共通点があり、その多くは原油を裏付け資産としたファンドとなっています。

政府系投資ファンドは一般的に、原油価格が上昇すると裏付け資産評価額が増加することからリスク資産の組入比率を上げ、原油価格が下落するとその比率を下げる、という投資行動を取る傾向があります。そのため、個人的な仮説としては、原油相場と日本株の市況にある程度の相関性があるのではないかと考え、海外投資家の売買状況とWTI原油先物価格を比較してみました(下図)。

すると、WTI原油先物価格と海外投資家の売り越し金額はある程度、相関しています。OPEC(石油輸出国機構)は2018年の6月の総会で減産を緩和し、世界の石油在庫が増加したことに伴い、原油相場がやや軟調に推移していました。そのため、9月頃に反発するまで、政府系投資ファンドは積極的な買いを入れづらかった可能性があります。

足元では、OPECおよびOPEC非加盟の産油国が両者合計で120万バレル/日の減産を来年1月から半年に渡って実施するという内容に合意したという報道も見られています。

これらの情報を勘案すると、年末までは、直近の原油相場の下落によるポジション整理が進み、年明け以降については、先ほどご紹介した報道の内容が反故にされない限り、原油価格がさらに下落する可能性は低く、政府系投資ファンドも現状維持、またはやや積極的な投資行動を取る可能性があると考えられます。

原油は、産油国の供給の思惑によって価格が左右されやすく、投機的な動きを除けば、比較的先行きの予測がしやすい商品であるため、客観的な指標として便利です。

最後に、他の市場参加者がどのような視点で今の相場を見ているかという観点は、私たちのような「個人」視点のみで投資判断をしてしまうことを避け、より客観的な判断を下すために有益な情報です。

今回は、足元では売買シェアの高い海外投資家が相場の牽引役を担っていることから、その投資家が何を基準に判断するかという裏側まで仮説を交えて検討しました。今後、法人や個人投資家が大きなシェアを獲得することになった場合は、別の指標等から先行分析のアプローチを行ってみると良いかもしれません。
 
<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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