はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する伊藤英佑氏がお答えします。

私はサラリーマンとして年収400万円程度、個人事業主として年間200万円程度の収入があります。その他、親から相続した賃貸不動産が4戸あり、年間300万円の家賃収入があります。この親から引き継いだ家賃収入があるおかげで、貯蓄は順調に増えています。現在、家賃収入はすべて貯蓄に回せています。しかし、将来的に子供に財産を相続させる際の相続税が心配です。今後、生活水準を上げるつもりはありませんし、65歳まで働き続けるつもりです。物件の空室状況により、変動すると思いますが、このままいくと金融資産だけで長男に1億円以上を相続させることになりそうです。なにか有効な相続税対策はありますか。


〈相談者プロフィール〉
・男性、40歳、既婚(妻:40歳・専業主婦)、子供1人(10歳)
・職業:会社員
・居住形態:持ち家(戸建て)
・手取りの世帯月収:65万円
・毎月の支出目安:35万円
・貯金:8000万円
・投資:200万円


伊藤: ご質問ありがとうございます。ご質問者は、給与、個人事業、不動産と複数の収入源があり、現在40歳で8000万円以上の資産を持ち、月に30万円の貯金をされ、堅実な生活をされているものとお見受けします。生活水準を上げるつもりはなく、将来、1億円以上の財産をご長男に相続することになりそうとのこと、どのような対策をしていけばいいかという観点から考えてみます。

基本は生前贈与を考えるべき

相続税は、相続という一時点で一度に発生するものですので、長期的に対策を続けていくほど効果も大きくなります。

相続時に家族に資産が移る時に掛かるのが相続税、生前に家族に資産を移す時に掛かるのが贈与税です。相続税、贈与税には基礎控除というものがあり、基礎控除を超えた資産額については、資産額が大きくなるほど税率が高くなる超過累進課税という仕組みになっています。相続税の基礎控除は【3000万円+法定相続人の人数×600万円】贈与税の基礎控除は【毎年110万円】 です。

将来の相続税対策として、まず最初に検討すべき方法は生前贈与を毎年続けていくことです。生前贈与は毎年110万円までは無税で、申告も不要です。ご質問者の年齢でしたら十分な期間がありますので、税金が掛からない範囲で、10年で1100万円、20年で2200万円という金額をご長男(+奥様)に移していくことができます。贈与税の基礎控除110万円は、もらった人につき110万円ですので、ご長男に年間110万円ずつ贈与をしていくというのが基本となります(もらう人が判定単位ですので、複数人から贈与を受けて合計が110万円を超えると贈与税が掛かります)。

税務署が目を光らせる「名義預金」に要注意

贈与にあたっては、贈与の意思を確かにするため、贈与契約書を毎年一枚締結し、贈与する人ともらう人とが別々の印鑑で、きちんと各人が管理する口座を用いて、振込により行うのが望ましいです。贈与先の年齢制限はありません。子供に意思能力がないと無効になりますが、たとえば成年になるまで親が法定代理人になるということも考えられます。贈与契約書の受贈者欄には、法定代理人(奥様)と受贈者(子供)、それぞれ別の印鑑を押しましょう。贈与したお金は預金しておくだけよりも、ジュニアNISA等を活用し、金融教育も兼ねて運用するのも良いかもしれません。

生前贈与の最大の注意点は、ご質問者が形式的には贈与をしたのに、実際には贈与を受けた人に資産が帰属していないような場合に、税法上で贈与成立とならず、ご質問者の財産とみなされてしまうことです。ご質問者が奥様やご長男名義の口座を作り、印鑑を管理した状態で奥様やご長男に知らせず勝手に生前贈与をするような場合が、これに当たります。

このような財産を「名義預金」といいます。相続税の税務調査では、税務署が家族間の預金口座の動きを細かくチェックします。名義だけを他者へ移しただけでは、亡くなった時にご質問者に帰属する資産と見なされて、相続資産と認定されるという追徴が最も多いパターンなので注意しましょう。

また、よりたくさん生前贈与を進めるためには、年間110万円を超えて贈与税を払いながら贈与をしていくことも考えられます。ご質問者の自分の財産が減っていきますが、【相続税率>贈与税率】の範囲内で贈与を進めていくのは、税金対策の観点からは効果があります。

なお、駆け込みでの生前贈与を防止するため、相続前3年内の贈与は相続税申告時に相続財産に加算されますので覚えておきましょう。

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