はじめに
今年は2016年と状況が似ているとされます。一体どういうことでしょうか。同年と比較しながら、為替市場の今後の動向を占ってみたいと思います。
為替相場の転換は2018年に起こっていた
さて、年初のドル急落はともかくとして、円高ドル安基調がスタートしたのは昨年終盤でした。特に10月上旬は為替相場の転換点とも言えるだけに、ここで一度おさらいをしてみようと思います。
重要な役割を果たしたのは何と言っても米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長です。10月3日の講演で同氏は、中立金利まで長い道のりがあるという認識を示しました。米国経済の力強さを考えると、ある程度のタカ派的な発言は自然だったかもしれません。
市場は当然のように利上げサイクルが道半ばであると理解し、米国債利回りは上昇余地を試す展開となりました。このこと自体はドルの支援材料と言え、ドル円は翌4日に一時114円55銭と同年の円の最安値を示現しました。
一方、株式市場にとって大幅な金利上昇は逆風であり、パウエル議長の発言以降、売りに押される展開となっています。金利上昇による米株式市場の急落は昨年2月にも見られた現象ですが、昨秋はなかなか歯止めがかかりませんでした。結局、リスクセンチメントの悪化が米国債利回りの低下を招き、連れて円買いドル売りが次第に優勢となりました。
大荒れの金融市場はFRBに方針転換を促すことになります。11月28日、パウエル議長は、現在の金利はいわゆる中立金利の推定レンジをわずかに下回ると軌道修正。さらに年明けの1月4日には利上げ休止の可能性にも踏み込みました。
このように振り返ってみると、円高ドル安を主導したのは皮肉なことにパウエル議長のタカ派発言だったとみられます。
なお、パウエル議長はその1月4日の講演において、2015年末時点で2016年は4回の利上げがFRBの予測中央値であったが、実際には1回しかできなかったことを引き合いに出しています。
セントルイス連銀が公表している金融ストレス指数を見てみましょう。2015年から2016年初めにかけて金融環境が急速に引き締まったことが見て取れます。
当時は中国株や原油価格の急落が市場センチメントを大きく悪化させました。直近の同指数も一時、2016年以来の水準まで上昇しており、このことがFRBの軌道修正につながったと考えられます。
2016年のドル円相場はどのように動いた?
では、その2016年のドル円相場を振り返ると、年初からほぼ一本調子で円高ドル安が進行し、6月には一時99円02銭を示現しました。ちなみに年初の水準は1ドル=120円程度だったため、20円以上円高に振れたことになります。
FRBの利上げ一時休止が円高ドル安の原動力だったとすれば、今年は同様の環境が見込まれるだけに、同年になぞらえて円高の進行を予想することは決して非合理とは言えません。2016年当時、FRBは利上げ再開に慎重を期し、年末まで待ったことを参考にすれば、少なくとも今年前半は様子見姿勢が続く公算が大きいでしょう。
なお、円が高値を記録した同年6月はEU離脱を問う英国の国民投票が実施され、離脱賛成派が勝利しました。今年は英国の「合意なきEU離脱」が警戒され、市場の重石となっています。“Brexit”をキーワードに相場を重ね合わせる向きもあるでしょう。