はじめに

一般家庭の投資を推進するスローガンとして、以前は「貯蓄から投資へ」というフレーズが政府を中心に唱えられていました。現在、このフレーズは「貯蓄から資産形成へ」と言い換えられています。政府が一般家庭に資産形成を促すために、より身近に感じられる表現を使う姿勢が伺えます。

アベノミクスが始動した2012年12月以降、株式等の利益を非課税にするNISA(少額投資非課税制度)の整備・拡充や、民間企業から付与されたポイントを運用できるサービスが生まれるといった新しい流れが起こりました。今後も、官民両面で家計の資産形成をサポートする動きが活発になっていくと思われます。

しかし、巷では「実感なき景気回復」という言葉も散見されます。一部の高所得層が株価上昇の恩恵を受けているという懸念もないわけではありません。実際のところ、一般家庭が投資をする動きは浸透しているのでしょうか。


家計の投資比率は増えてきている

日本は、米国や欧州に比べて現金・預金の保有率が高いといわれています。日本銀行が公表している資金循環統計によれば、2018年9月末の家計の金融資産は、過去最高の1,859兆円まで増加していますが、このうち、968兆円が現金・預金でした。

約52.1%もの金融資産が現金・預金であることを考えると、一見投資は浸透していないように思われます。しかし、アベノミクス始動当時の2012年12月末データでは、金融資産のうち、約55.2%が現金・預金でした。実はアベノミクス始動後、徐々に現金・預金の割合は減少しているのです。

現金・預金とは対照的に、株式等については同時期に6.8%から11.2%まで増加しました。この水準は過去最高であり、全体としては、家計の資産形成に投資を検討する動きが広がっているといえるでしょう。

年収400万円台の人々は投資しているのか

全体の割合からもう一歩踏み込んで、年収別でどれくらい投資が浸透しているかを確認していきましょう。ここでは特に年収400万円台の人々の間で、どれくらい投資が浸透したかを検討したいと思います。年収400万円台という年収レンジでは、結婚や出産といった重要なライフイベントが将来発生しやすい傾向にあります。この年収レンジの人々は、結婚費用や教育資金など、将来発生する費用のために多くの貯蓄が求められます。

「将来に備える」というキーワードに対して、預金だけでなく投資という選択肢も連想できるかが「貯蓄から資産形成へ」を達成するカギとなるのではないでしょうか。

図は、日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」における一般家庭の株式保有比率をグラフにしたものです。各年収レンジ別に2009年から2018年の株式の保有比率が確認できます。

全体的に、年収が高いほど株式の保有比率が高い傾向があることが伺えます。また、リーマンショックによる不景気が続いた2009年から2012年の間は、全年収レンジにおいて株式等の保有比率が減少しています。年収500〜1,000万円未満においては、株高となった現在でもリスクが比較的高い株式の保有を回避する動きが見てとれます。

一方で、アベノミクスが始動する2012年以降についてみると、年収100万円台、400万円台、1000万円以上の属性では、株式等の保有比率が大きく上昇しています。このうち年収400万円台は+5.3%と、全体で最大の上げ幅となっています。年収400万円台の株式等保有比率は2012年の16.4%から21.4%まで上昇し、年収500~700万円台の保有比率を上回っています。

しかしながら2009年の水準を上回っているのは、全体の中で年収1,000万円以上のみでした。この事実から考えると、アベノミクスで年収400万円の人々は投資をするようになったというより、投資に回帰する動きが最も強くみられたにすぎないということが実情ではないでしょうか。

総務省の家計調査(平成29年平均、全国・2人以上の勤労者世帯)によれば、年収400万円の世帯が手取り収入のうち、76.4%から78.7%を消費に充てる一方で、年収1,000万円以上の世帯は63.7%から66.5%程度しか消費に充てていません。

同調査の「有価証券購入」という項目では、年収400万円の世帯は平均で毎月224円から482円を有価証券の購入に充てています。一方で年収1,000万円以上の世帯は、平均でその10倍以上の2698円から4828円を毎月の有価証券購入に充てています。年収が高いほど余裕資金が多くなり、その結果投資をしやすくなるという心理的効果があるようです。

結局のところ、全体的な投資比率を牽引しているのは余裕資金が多く、株式の保有比率が高い高所得者層であるというという傾向に動きはあまりみられなかったようです。

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