はじめに
“買う場”と“学ぶ場”を近くに置く
なぜ日興証券は“破格のサービス”を始めることにしたのでしょうか。実は、2016年のフロッギーの配信開始当初から考えていた仕掛けだといいます。
「アンケートを実施してみると、損をするから投資しないのではなく、知識がないので投資を始められないという方が多かった。逆に、投資を始めた方に何がきっかけだったのか聞いてみると、気になった銘柄から買ってみたという声が多かった。“買う場”と“学ぶ場”を近くに置こうというのが、フロッギーの当初からの発想でした」(ダイレクトチャネル事業部の田中惠子さん)
とはいえ、いきなり「記事から株が買えるサービス」を始めたところで、どこまで実効性があるのかは不透明。そこで、メディアとしてのコンテンツを作り込むとともに、ユーザー調査を何度も繰り返しました。
すでに投資経験のある投資家に対して実際に取引する際に何を重視しているのか、あるいは投資を始めたばかりの人がどうやって成功したのか、などをヒアリング。その結果を開発に落とし込むという作業を、20回は繰り返したそうです。ヒアリングした人数は数千に及ぶといいます。
【フロッギーの株取引画面】
その結果、たどり着いたのが、株価のグラフと売買ボタンだけという、シンプルでわかりやすいUI(ユーザーインタフェース)でした。「これまで通りの証券会社の目線だと、できなかったサービスです。たくさん機能を付け加えると、初心者が離れてしまう。あえて“引き算”の設計にしました」(ダイレクトチャネル事業部の増田直樹副部長)。
フロッギーをきっかけに株取引を始めてもらい、次は1万円でやってみようとか、ボーナスが出れば単元株で購入して株主優待をもらおうと、ステップアップしてもらうのが、日興証券の狙い。今は損失が出ている状態ですが、「取引の規模が大きくなれば、その分、収益は大きくなります」と、丸山事業部長は意気込みます。
シニア層からの問い合わせも
新サービスのローンチ以降、フロッギーへの訪問者数は1週間で従来の4倍まで拡大。2~3月の月間ページビューは、以前の3~5倍になる見通しだといいます。
売買した人数に対する売買件数は5~10倍で、1人当たり5~10回の取引をしている計算です。「気軽に取引できる効果が表れていると考えています」と、増田副部長は頬を緩めます。
購入されている銘柄を見ると、記事に掲載しているものがほとんど。手数料の安さや必要金額の小ささに引かれて購入しているというより、実際に記事を読んで購入している人が多いと考えられます。
20~40代のデジタルリテラシーの高い人をターゲットにしていましたが、コールセンターには60~70代からの問い合わせも来ているとのこと。今後は、市況やユーザーの状況に応じて最適なコンテンツが推薦される機能も導入し、ユーザーの囲い込みを進めていく構えです。
「投資に興味がなくはないが、今一歩踏み出せない人の背中を押していきたい」と増田副部長。数百万人がターゲットになりうると想定しています。
「こういうサービスが出てくると、10年後、20年後も対面証券がこのままの状態でいられるわけでもない。業界が大きく変わるきっかけになるかもしれない」(丸山事業部長)。イメージキャラクターのカエルのように、フロッギーは業界構造を一変させる、大きな飛躍を遂げるでしょうか。