はじめに
4000万で家が売却できても、老後生活に余裕はなし?
では、健康でなくなってしまった場合はどうでしょうか。
厚生労働省の「平成29年簡易生命表」によると、男性の平均寿命が81.09歳、女性は87.26歳となっています。相談者の年齢である65歳の平均余命でみますと、24.43年ですので89.43歳となり、平均して90歳近くまで生きる計算となります。ただし、日常生活に制限のない健康寿命については、女性平均が74.79歳(※1)となっていますので、14.64歳の差があります。この時期にかかる医療費や介護費用などは、通常の生活費プラスαを考慮する必要があります。
介護でかかる費用としては、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)の平均が69万円、月々の費用の平均は、在宅で4.6万円、施設を利用すると11.8万円となっています(※2)。
もし介護状態になり、14年間にわたり施設を利用した場合、月11.8万円×14年=約1982万円かかることになり、現在の預貯金2000万円をほぼ使い果たしてしまう計算となります。14年間ずっと介護状態というのも考えすぎかもしれませんが、ある程度の支出を想定しておくことが重要です。
このように考えると、現在のマンションを売却して、賃貸にした場合、仮に家賃が月10万円かかるとすると、10万円×12ヵ月×25年(90歳まで)=3000万円ですので、4000万円で売却できたとしても、そこまで余裕がある状態ではなくなってしまうかもしれません。
※1:厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(平成30年3月)より
※2:生命保険文化センター 平成30年度「生命保険に関する全国実態調査」より
大事なのは、どういう暮らしをしていきたいか
今後の住まいを考える上で、最も大事なのは、理想の生活をイメージすることです。これから20年以上ある人生、せっかくなら楽しく過ごしたいですよね。ただ理想の生活といっても、思い浮かばない方も多いかと思いますので、「ライフスタイル」と「健康」を中心に考えてみましょう。
まずは、ライフスタイル。年齢を重ねると共に生活スタイルも変化します。お友達と演劇を観劇したり、カラオケなど外で活発的に楽しむ方もいらっしゃれば、あまり外に出ず自宅でガーデニングやお茶会などを楽しむ方もいらっしゃいます。過ごし方が変われば、住む場所も変わります。これからどう過ごしたいのか、そのためにはどういった環境に住むのが最適かを考えてみてください。
そして、健康です。健康であれば、十分生活をしていけますが、もし病気になったら、もし介護状態になったら、誰が看護してくれるでしょうか。夫でしょうか。娘さんでしょうか。ご主人が先に亡くなっていれば、娘さんに負担がかかるかもしれません。家族には迷惑をかけたくないので、施設に入りたいという方、逆に施設は避けてなるべく自宅で過ごしたいという方、考え方次第で選択肢が変わってきます。
「なるべく家族に負担をかけず、賃貸で」ということでしたら、サービス付き高齢者向け住宅を検討してみてはいかがでしょうか。自立して生活できる方が入居でき、生活支援や医療サービスがあるので安心です。介護事業所を併設している施設も多いので、軽度な介護までは対応でき長期間住むことができます。施設は避けたいということでしたら、バリアフリーの整ったマンションへの住み替えも選択肢のひとつです。その場合、娘さんも近くに住んでくれていると安心ですね。いずれにしても、それぞれ費用をシミュレーションしてみてください。
今回は、万一のことを前提にお話ししましたが、何よりも今の生活の充実が第一だと思います。万一の時の想定をしながらも、家族との時間を大事になさってください。そして、ご家族で将来のことについて話し合うことをおすすめします!