はじめに

20代~40代は"親の老後"が始まる時期です。生活費の援助や同居などが必要になると自身の生活にも大きく影響するため、親の老後生活や家計のことは早めに情報共有をしておくことが大切です。

なかでも、親の老後収入の柱となる「老齢年金」をいくら受給できるのかは、親自身が独立して老後生活を送れるかどうかに関わるため、とても重要です。

そこで今回は、これから年金を受給する親に教えてあげたい、「繰上げ受給」と「繰下げ受給」を活用した"年金の賢い受け取り方"についてお伝えします。


親の年金は家計のことを共有する良いきっかけ

自分の親が年金を受け取る時期を迎えたら、将来に備えて親の家計状況について情報共有を進めていきましょう。「親が元気なうちからお金の話をするなんて…」と、抵抗を感じるかもしれませんが、"早い時期から"始めるのがポイントなのです。

なぜなら、親が80代になる頃、自分は50代~60代。子供の教育費や自分の老後費用に備えたいこの時期に親の家計が厳しいことが判明すると、自分のライフプランが崩れてしまう危険があるからです。

家計のピンチは、早く分かるほど打てる対策が多くなります。親が年金を受け取り始める時期は、還暦や退職のお祝いなど、親の老後についての話題が上がりやすくなっています。「いつから年金を受け取るの?」という話から、少しずつ親の老後の家計について触れてみると良いでしょう。

年金を賢く受け取って、長い老後生活に備えよう!

老齢年金は原則65歳からそれまでに支払った保険料に応じた金額を受け取れるのが基本ですが、支給開始時期をずらすことで年金額を増減できることをご存じでしょうか。

・「繰上げ受給」は最大3割の減額

本来の支給開始日である65歳より前に年金を受給し始めることを繰上げ受給と言います。早く支給開始となる代わりに、年金が減額となります。年金の減額率は、ひと月あたり0.5%で、60歳から5年間繰上げて受給開始した場合は30%となります(※)。

・「繰下げ受給」は最大約4割の増額

本来の支給開始日よりも支給開始日を遅らせて、増額された年金を受け取ることを繰下げ受給と言います。増額率はひと月あたり0.7%です。70歳までの最長5年間繰り下げることで、最大42%の増額となります(※)。

年金を受給開始した後は変更や取り消しができないため、減額された年金や増額した年金を一生涯受け取ることになります。20年や30年もの長い間受給し続けると考えると、年金の受け取り方を変えるだけで老後の家計が一変することもあります。たかが受け取り方と軽く考えず、年金を受け取る前にベストな受け取り方を考えることが大切です。

※昭和16年4月2日以降に生まれた場合。

平均余命で考えると「繰上げ受給」は"損"になる?!

繰上げ受給の魅力は年金を早く受給できることです。繰り上げた月数分だけ「受給期間」が長くなります。

しかし、年金額は減額となるため、「受給総額」を計算してみると、繰上げ受給を開始した16年8カ月後には65歳から受給開始した場合に追いつかれることが分かります。

たとえば、60歳から繰上げ受給を開始した場合は76歳8カ月。63歳からの場合は79歳8カ月です。

表1.繰り上げ受給の減額率の例

支給開始年齢 繰り上げ期間 減額率 受給総額が65歳受給者(本来請求)に追いつかれる年齢
60歳 5年(60カ月) 30% 76歳8カ月
61歳 4年(48カ月) 24% 77歳8カ月
62歳 3年(36カ月) 18% 78歳8カ月
63歳 2年(24カ月) 12% 79歳8カ月
64歳 1年(12カ月) 6% 80歳8カ月
本来請求 0年(0カ月) 0%

※昭和16年4月2日以後生まれの場合
※資料:日本年金機構ホームページをもとに執筆者作成

厚生労働省の「平成29年度の簡易生命表」によると、60歳の平均余命は、男性が約24年、女性が約29年となっています。これをもとに男性は84歳、女性は89歳までは生きると想定すると、繰上げ受給はせずに本来の支給開始日から受給開始したほうが受給総額は多くなると期待できます。

そのため、60歳から支給開始年齢までの生活費が心もとないという場合でも、年金の繰上げ受給を利用することは避けて、貯蓄などでやりくりすることを考えたほうが無難といえるでしょう。

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