はじめに
“関西の赤羽”尼崎が躍進したワケ
一方、ここ数年で順位を伸ばし、ついに高槻市を抜いたのが、今年21位にランクインした尼崎(JR東海道本線)です。調査全体の傾向と比較すると、年代別では20代と40代の支持が強く、属性別ではシングル男性が支持しています。また、大阪府民からの支持も多いのが特徴です。
尼崎は大阪駅から快速で1駅、所要時間は約5分と、交通利便性は抜群。加えて、駅前のキリンビール工場跡地に大規模商業施設「あまがさきキューズモール」が開業し、商業利便性も高まりました。固定電話の市外局番が大阪市内と同じ「06」であることも、人気の一因になっているようです。
それでいて、物件価格は梅田や芦屋の半値以下。かつての尼崎といえば、首都圏における赤羽のように、どことなく混沌とした雰囲気の街でしたが、転勤族や関西の生まれ育ちではない人から見ると、コストパフォーマンスの良い街に映るといいます。
また、保育所の数を増やすなど、教育や子育てに重点を置いた行政が進められていることから、40代の子育て世代の支持を集めているとみられます。こうした政策は大阪府よりも兵庫県のほうが目に付きやすく、大阪府民からも支持を得ている背景にありそうです。
尼崎と同じ阪神エリアでは、西宮北口(阪急神戸線)の圧倒的な人気も目立ちます。通常、街として成熟し、物件価格が高くなるとランキングは落ちますが、西宮北口では再開発が継続的に進められており、街としての魅力は高水準を維持しています。
また、梅田駅まで約20分と交通利便性も高く、乗降客数は阪急電鉄で2番目の多さを誇ります。近くには関西学院大学もあり、その後の関西経済に影響力のある学生が住むことも、街としての魅力を高めることにつながっているとの指摘もあります。
尼崎と桂に共通するジャンプアップ要因
尼崎の健闘から垣間見える、最新ランキングのもう1つの特徴が、巨大な商業地を中心にした再開発地域(メガシティ)の隣町が大きくジャンプアップしている点です。
近年の住みたい街では、自由が丘や吉祥寺のような小さな商業施設が集まり散策に適した街よりも、メガシティが上位に入りやすい傾向が強まっています。しかし、こうした街は中心部の物件価格が高騰するという状況も進行。逆に、周辺部の割安感が高まっているわけです。
尼崎を例にとれば、快速で隣駅の大阪が70平方メートル換算でマンション価格が8,000万円を超えているのに対し、尼崎は3,000万円台。東京では吉祥寺や自由が丘のような周辺部まで物件価格が上昇していますが、関西ではそこまでではないため、メガシティの隣町が人気を集める結果となりました。
特に顕著な例が、阪急京都線の桂です。現在の京都市内は増加する外国人観光客に対応するため、ホテルの建設ラッシュが続いています。その結果、用地が思うように買えず、市中心部ではマンション価格が急騰しています。
そこで割安感が高まっているのが、市中心部から見て桂川の対岸にある桂。物件価格は市中心部の半値程度でありながら、近隣の駅には大規模商業施設が複数存在しています。また、京都大学・桂キャンパスが開設されたことで、優秀な学生や彼らを目当てにしたベンチャーが集まっています。
こうした状況から、教育熱心な40代の子育て層からの評価が上昇。転勤族からも人気を集め、京都と大阪のベッドタウンとして街のイメージが向上しています。
住みたい街の明暗を分けた“2つの要素”
今回のランキングで住みたい街の明暗を分けた要素の1つが、転勤族の存在です。
冒頭でも触れたように、関西は人の流動性が関東に比べて低く、街の評価が固定化されやすい傾向にありました。また、関東に比べると地元への愛着が強く、他府県の街を支持するというマインドは乏しい、という認識が一般的でした。
しかし、メガシティの再開発が活発化したことで、これまで転勤族が住む定番の街だった北摂ではなく、職住近接の大阪市内、あるいは相対的に割安な尼崎や桂に住むようになり、ランキングの様相を変えるきっかけとなっています。「関東と関西が逆になった印象。今回のランキングですごく気になりました」(東京カンテイの井出さん)。
明暗を分けたもう1つの要素が、学生です。西宮北口の安定した人気や、桂のブランド力向上の一因となったのが、関西を代表する名門大学の存在でした。
こうした流れを受けて今後の発展が期待されるのが、同時発表された「住みたい自治体ランキング」で29位に入った和歌山市です。同市では、市内の小中学校を統廃合したり、小中一貫校を開校する一方、空いた土地に複数の大学を開校。大量の学生を呼び込んでいます。
(出所)リクルート住まいカンパニー
「地価が上がっているのは、若者が入ってくる街。学校を作るのは、若年層を呼び込む手っ取り早い手段です」と、井出さんは解説します。
大学生は卒業すると街を出ていってしまう傾向がありますが、地元に職があれば留まってくれます。職場が増えると20~30代が定住するようになり、地元で結婚し、子供も生まれて、人口増につながります。
教育機関の再整備によって招き入れた若年層に対し、次は職場を誘致することで定着してもらい、街としての発展につなげられるか。この循環をうまく回すことができれば、和歌山市も住みたい街ランキングで上位に入る可能性が出てきそうです。