はじめに
年初にこそ一波乱があったドル円相場。しかし、このところは1ドル=110~112円のレンジで膠着状態が続いています。
いったいなぜ、ここまで値動きが乏しくなっているのでしょうか。その背景と、今後の見通しについて考えてみたいと思います。
為替の市場心理を測る指標とは?
ドル円相場の値動きは「リスクセンチメント(心理)」で説明されることが多いといえます。たとえば、リスクオン時は円売りとされます。理由は次のようなものです。
日本の金利は世界で最も低い部類にあります。低金利の通貨を調達し、高金利通貨で運用すれば、利ザヤが得られます。相場が安定している、言い換えれば変動率(ボラティリティ)が低ければ、それほど為替差損を気にすることなく、円を売ることが可能という論理です。
結局、市場のリスクセンチメントという概念は曖昧ではありますが、それを測る指標はボラティリティということになります。
調達した円を売却し、高金利通貨で運用する取引は「円キャリートレード」と呼ばれ、2005年から2007年にかけて最盛期を迎えました。ところが、2008年にリーマンショックが起きると、状況が一変。大量の円売り外貨買いポジションが一斉に巻き戻され、円が急騰する展開となりました。
リスクオン・リスクオフはかつての名残
現在に話を戻すと、日本と他国の金利差がかつてほど大きくないため、円キャリートレードは下火になっているとみられます。したがって、リスクオン、リスクオフという概念にいつまでも縛られる必要がないのかもしれません。
しかし、依然として市場のリスクセンチメントが円の売買の基準となっています。この理由として、為替取引の中心がAI(人工知能)を使ったアルゴリズムに置き換わっていることが挙げられそうです。彼らの行動パターンは過去の経験則に基づいており、今のところ「リスクオンの円売り(リスクオフの円買い)」が絶対的な法則になっているとみられます。
刻一刻と伝わる情報がリスクオンなのかリスクオフなのかを瞬時に判断し、コンピュータが高速で売買している時代です。もはや、なぜリスクオン(リスクオフ)で円が売られる(買われる)のかを考えることに意味はないに等しく、為替相場を予想する人間の側も悲しいかな、所与の条件とするしかありません。
現状、世界経済に対する不透明感が依然として払拭できませんが、ドル円相場の予想ボラティリティは低位にあります(上図)。結局、市場センチメントはリスクオンに傾斜しているとみられ、これが足元で円買いが盛り上がらない理由の1つでしょう。