はじめに

上西教授による国会を見るコツ

その1:国会には「前回までのあらすじ」が必要

上西:国会で話されていることの内容が難しかったり、わかりにくいのは、そもそも国会中継にしても政治ニュースにしても、国会審議を何の解説もなしにそのままを流したり、今のようなニュースの伝え方で「見て理解しろ」ということに無理があるからなんですね。

例えば、テレビの連続ドラマでは「前回までのあらすじ」や登場人物の紹介が流れます。国会も連続ドラマと同じ。「前回までのあらすじ」が必要。何が取り上げられているのか、そして何が争点になっているのか。現在の議論に至るまでの流れの解説が必要です。

国会について、いきなり解説なしに見たり読んだり、もしくは、「ニュースを見てもよくわからないから」と、実際の国会中継をその日の最初からいくらがんばって見たとしても、すでに、かなり長期に渡ってつづられてきた物語をクライマックスから見るようなもの。わからないのは無理もありません。

ずっと国会を見ている人でも、途中を少しでも見逃すとわからなくなることもあるので、初心者や途中から議案や法案に興味を持って見ようと思った人にはなおさらわからないでしょう。

とはいえ、もろもろを自分で調べたり、長時間の審議を見る時間は普通の人にはありません。本来ならニュースや新聞記事で概要だけでもつかみたいところです。しかし「前回のあらすじ」付きの報道はもちろん、やさしい言葉で読み解くような記事やニュースも足りていません。

特にテレビは、会期中、動向を取り上げても、ほんの2〜5分程度の枠がほとんど。与野党の感情的な対立シーンなどのわかりやすい絵面が優先され、具体的にどんなやり取りが行われた末に“怒っている状態”になったのか。質疑答弁の全体は伝えていない。新聞も、結論だけを記事にしがちです。

そのため、野党がただ怒ったり、逆に政権側はそれをきっぱりと否定している“ように見える”シーンが繰り返され、そこだけが印象に残ってしまっている。「野党がだらしないから」とよく言われますが、実際はかなり緊迫した、ある意味、“面白い”質疑答弁があっても、なかなか知られることがない。国民が国会に興味を持てなくなるのも仕方ないでしょう。

その2:国会運営のルールをおさえよう

上西:また、そもそも国会運営のルールを一般の人はよく知らない。これも、国会審議のわかりにくさの大きな原因になっていると思います。

例えば、「レク」や「野党合同ヒアリング」の存在です。国会で質疑をする前に、野党議員は関係省庁に資料の提供や説明を求め、質問をする「レク」を重ねたうえで質疑を準備し、国会に臨みます。重要問題については「野党合同ヒアリング」を開き、各党の議員で問題意識を共有することもあります。

「レク」や野党合同ヒアリングはいわば国会の前哨戦。この前哨戦でのやり取りも踏まえて、国会では、大臣らに質疑をしています。野党合同ヒアリングの様子も把握していないと、流れや争点がつかめないことがあります(注:野党合同ヒアリングは、現在、野党議員のアカウントで中継や動画配信している)。

ほかには、実際の国会審議中、議事進行役の委員長が言う「後刻、理事会で協議します」とはどういうことか。あるいは「速記を止めてください」とよく質疑者が言うけれども、何で止めないといけないのか。

理事会とは委員会運営を確認・協議するためのもので、会派ごとに割り当てられた人数の理事がいます。質問者、答弁者の発言に会派として問題を感じたとき、その場で委員長に調整を求めて抗議したり、資料の提出や参考人の招致について、後日、理事同士で協議を行ったりします。速記を止めろとは時間のカウントを止めろということ。答弁にならない繰り返しがあったりした場合、それを許すと、その分、決められた質疑の持ち時間が削られてしまうからです。

国会運営の前提やルールがわからないと、審議を見ても、実際は何を話しているのか、何が起きているのかもわからない。しかし、残念ながら今のニュースや記事の伝えられ方だと、前回までのあらすじはもちろんルールもわからない。だから、解説なしにわかるところだけを見ることになり、難しかったり、退屈に感じるのだと思います。

解決策としては、やはり、「いきなり見ない」こと。国会では、通常国会だけでも100を超える法案が提出*1 され、1日いくつも委員会が並行して開かれており*2 、さらに1案件でも1日数時間、数週間に渡って話されています。一度、外交が気になるなら外務委員会、幼児・保育無償化の法案なら内閣委員会、統計不正問題なら予算委員会などと、自分が一番気になる案件の委員会や法案の審議に絞って見る。そうすると国会審議の仕組みや前提、ルールも分かるようになると思います。

あるいは、特にそういうものがなければ、手前味噌ですが、私たちが有志で主催している国会パブリックビューイング(国会PV)では、一応、旬の話題を取り上げているので、今なら2月4日の質疑をまとめた国会PVの解説動画を見てもらうのもいいかもしれません*3 。統計不正問題に関わる質疑ですが、この解説動画から見て、関連する動画を見たり、国会中継を見ると今国会の流れにも追いつけると思います。

この日の小川淳也衆議院議員(無所属/立憲民主党・無所属フォーラム)の質疑は、見どころたっぷりです。私は、労働問題を扱うので、基本的に厚生労働委員会を見ています。小川議員は総務省出身の元官僚で総務委員会の人。名前も知りませんでした。

でも統計不正問題は予算委員会で審議されたので、見ていたら、すごい展開になった。まさに「前回までのあらすじ」のように、ここまでの流れと、争点が誰にでもわかる質疑になっています。

*1 衆議院HPで「議案種類」のところをクリックすると、提出された議案やその進捗情報が見られる。今国会は198回国会。
*2 国会には予算委員会以外に衆議院の常任委員会だけでも17委員会ある。衆議院の委員会参議院の委員会
*3 国会PVによる2月4日の審議の解説動画。この日以来、小川議員は「統計プリンス」と呼ばれ、各方面で注目度が上がっている。

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