はじめに

その3:国会は別に茶番ではない

上西:そもそも私が国会審議を詳細に見るきっかけになったのは、2017年3月に衆議院の厚労委員会で、職業安定法の改正に関して労働の専門家として意見陳述をすることになったから。

それまでも、2015年の国会での派遣法改正や若者雇用促進法の審議なども注目していました。例えば派遣法改正の審議では、政権側はいいことしか言わない。私も初めは「そんなもんかな」と思いながら国会審議を聞いていました。でも、2018年の働き方改革関連法案になると国会審議の答弁に強く違和感を抱くようになった。

というのも、働き方改革は「長時間労働を是正します」という触れ込みで始まったのに、実際には法改正によって長時間労働を助長してしまう裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設を同時に行おうとしていたわけです。しかも、この問題点について、野党が国会で何度指摘しても政権側にはぐらかされていた。

一方で、テレビや新聞といったメディアでは、国会の様子を部分的に伝えるだけ。質疑の全体ほか、何がどう国会で話されているか。適切に知らされないまま「ちゃんとやってくれてるだろう」と、何となくお任せにしてしまっている人がおそらく多いだろうと思ったんですね。そこで、もっと生の国会を解説付きでみんなに見てもらってはどうかと考えたのが国会PVを始めたきっかけです。街頭上映を始めて1年経とうとしていますが、聴衆や視聴者は増えています。

お任せにしてしまう人もですが、今のように、政権と与党が一致していると「どうせ賛成多数だから、結論は決まっている」「いくら審議しても茶番にしかならない」と思う人も確かに少なくないでしょう。

しかし、裁量労働制の拡大は、野党が騒ぎ、世論もメディアも反応したことで撤回されました。多くの人が国会を見たことで、結論ありきでなくなることも十分あるわけです。私たち国民が「政治なんてこんなもん」と諦めて、国会も見ず、関心を持たなくなったら野党も力を発揮できないし、官僚も現状に従うしかありません。彼らを責められないでしょう。

その4:「経済とはすなわち労働問題」と知れば、国会も簡単

上西:これは私のツイッターを見ている方がおっしゃったことですが、「経済とはすなわち労働問題」です。例えば、統計不正問題も私たちの給料の上がり下がりを示す毎月勤労統計の扱いのことであり、結局、この問題は「賃金」という労働問題です。

働き方改革も、「人件費節約」や「長時間労働」という労働の問題。派遣法だって、非正規を増やすことだってそう。官僚が左遷を恐れ、政権の意向を忖度して、あるべき行政がゆがんでしまうこともいわば労働問題。高齢者が比較的政治に対して関心があり、現役世代がそうでないのも、考える時間や行動する時間を奪われているという労働問題と関係しています。

外交にしても経済とつながっていることを考えれば、労働問題にいきつく。つまり、国会で話されていることは労働問題と密接に関係しているのだから、本来、一番身近で、誰にでも理解できるはず。でも、資本主義社会では、特に権力側にとって労働問題は一番やっかいなので、その存在をできるだけ隠したいものです。だから、オブラートに包んでなかなか中身を見せない。言葉を微妙に変え、表面化させない。だからますます、内容の本質がわかりにくくなる。

選挙でも、野党ですら争点として「労働」とは立てない場合が多いです。雇う側と雇われる側の対立構造のどちらに立つのか、とみられるのを避けているのでしょう。でも、本当は、これが国会や政治から一般の人を遠ざけ、わかりにくくしている一番の原因かもしれません。

政治や経済の問題を労働問題として立てないことで、身近な問題と思わなくなり、国会に関心がなくなり、労働者側の力もいつの間にか弱くなって、みんなが苦しむ。「経済とは労働問題である」「労働問題につながっている」と知れば、政治や経済への理解と同時に、国会で話されていることを理解しやすくなると思います。

大学で一所懸命に支援して若者を企業に送り出したのに、非常にやる気をもって就職した卒業生がひどい働き方を強要されて体を壊し、再就職もままならない状態になることに遭遇しました。その時に、教える側として法律通りになっていない現実に備えをもって送り出してあげることができなかったことを痛感しました。でも、そういう現実には、法律を盾に闘うこともできます。逆に、「これは違法だ」と言える裏付けを失えば、権利主張はますます難しくなります。

このこともあって、今、私は国会を見たり、国会PVを続けています。なぜなら、国会は法律を決める場。国会を通して法律は変わります。法律が変わるというのは、闘う前提条件が変わること、そこに影響を与える国会を無視するのはありえないわけです。引き続き、国会をみんなでみていきたいと思います。

一方で、最後にもう一点だけ。国会を見るなら「我々は見ているぞ!」「監視しているぞ!」ということだけで見るのはちょっと違うとも感じています。

もし、国会を見て「いい」と思う質疑があったら、ぜひ、その「良かった!」という気持ちや感謝もあわせて直接、議員に伝えてほしい。国会PVでも聴衆にそのことをお願いしたところ、多くのごく一般の人たちと政治家との間に非常によい交流の循環が生まれた事例があります。議員の個人SNSに「良かった」とコメントするだけでいい。政治を知るだけでなく、政治家と市民の間によい相互交流を生み出せるのも、国会を見る効用の一つです。こうした姿勢で国会を見ていきたいです(談話終わり)

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