はじめに

2019年5月上旬に行われた投資会社「バークシャー・ハサウェイ」の株主総会における、ウォーレン・バフェットCEO(最高経営責任者)の発言が物議を醸しています。バフェット氏が株主に、Amazon.comへの投資を「割安株投資の原則に沿ったものだ」と説明したからです。

この説明に対し、一部の市場関係者から「PER(株価収益率)が高いAmazon.comに投資をすることは、割安投資の趣旨に反する」と、疑問視する内容の声も上がっています。バフェット氏はどのような視点でAmazon.comを割安と判断したのか、検討していきます。


高PERと割高であることは直結しない

PERが高い銘柄は、一般的に「割高である」と言われます。それは、PERが「投資金額の回収までにかかる期間」である、と説明されることが多いからです。

たとえば、PERが100倍の時、投資金額の回収に100年かかるということになります。単純計算で考えると、毎年1%のリターンとなります。逆にPERが1倍であれば、投資金額の回収に1年しかかかりません。この場合は毎年100%のリターンとなります。

PERが82倍のAmazon.comに投資すると、投資金額を回収するために82年もかかってしまうことになります。NYダウの平均PERが足元では18倍程度であることを考えると、確かにAmazon.comのPERは割高ということになりそうです。

では、市場の平均的なPERが18倍とわかっているのに、それより高いPERで放置されているのはなぜでしょうか。パソコンで簡単にスクリーニングを行うことができる現代であれば、18倍よりも高いPERの銘柄は即座に発見することができます。

仮にPERの数値が高ければ割高であるならば、Amazon株は即座にPERが18倍程度になるまで売り崩されるはずです。そうなっていない理由としては、多くの投資家がそもそもPERの数字自体を判断基準としていないことにあるでしょう。

投資家の目線は、現在ではなく将来にあります。今はPERが高くても、将来期待するリターンが見込めれば投資をします。一方、今PERがどれだけ低くても、将来期待するリターンが見込めないのであれば、投資しません。

宝くじと低PER投資は似ている?

PERを判断材料にして投資することについて、宝くじと国債の例で考えてみましょう。

PERが「投資金額を回収するための期間」を示しているとすると、その期間が短い(PERが低い)ということは「利回りが高いこと」を意味します。極端な例え方をすれば、低PERでの投資は宝くじの購入に似ているといえそうです。

年1回、300円の宝くじ購入で3億円のリターンが見込まれる場合、その利回りは1億%となります。そうすると、1年のうち1分34秒で投資金額を回収できることになります。これをPERに無理やり当てはめると、0.000003倍になります。

しかし、ご存知の通り、宝くじで高額当選を引き当てることは極めて困難。いくら利回りが高くても、無価値になるリスクがそれを上回るのであれば、“投資”として適切ではないということになるでしょう。

逆に、高PERであることは「利回りが低いこと」を意味します。利回りが低い金融商品といえば、国債です。

日本国債(30年債)の利回りは年間で約0.5%です。単純計算すると、投資金額の回収までに200年かかることになります。PERに無理やり当てはめると、200倍になります。しかし、日本国債は利回りが低くても、無価値となるリスクが低いため、投資対象として選ばれています。

ここまで考えると、読者の皆さんは「宝くじと日本国債は性質が異なるので、単純な比較はできない」と考えたかもしれません。その感覚は正しいといえるでしょう。国債の投資金額を回収するのに200年かかるのであれば、日本経済が破綻する確率が100年に1回と考えるか、500年に1回と考えるかとでは、投資判断が変わってきます。

このように考えると、ある企業のPERを他の企業や市場の平均と比較して判断することも、同様におかしなことであると気づくのではないでしょうか。PERが割安か割高かを比較するためには、その企業の成長可能性と比較して高すぎる倍率がついていないかどうかをみなければなりません。

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