はじめに

保険は難しくてわかりにくい、 投資はギャンブルだから怖い? こんなネガティブなイメージを覆すために業界を変革してきた2人の社長、ライフネット生命保険の岩瀬大輔さんとさわかみ投信の澤上龍さん。

保険と投資信託、扱う商品は違いますが、人々の暮らしをお金の側面から支えてきた両社によるセミナー「若い世代に伝えたい これからのお金との付き合い方」が、1月19日に開催されました。

二人の社長はお金をどのように捉え、日々向き合っているのでしょうか? 会場につめかけた参加者と対話を重ねながら、賢いお金との付き合い方について考えました。


ライフネット生命の誕生まで

まずは岩瀬社長がライフネット生命を立ち上げた経緯から。

「たった一度きりしかない人生なのだから、自分にしかない個性と強みを活かした生き方をするべきじゃないか」これはハーバード・ビジネス・スクールに留学していた頃の岩瀬さんにある人がかけた言葉。この出会いをきっかけに岩瀬さんの“生命保険人生”がスタートします。

「保険のことはなにもわからなかった」という岩瀬さんと共にライフネット生命を立ち上げたのは、保険業界の裏表を知り尽くした出口治明さん。二人が出会った2006年は、ちょうど社会問題として保険会社の不払い事件が取り沙汰されていた頃。「生命保険は、いつの時代も市民社会を支える大切な存在であるのに、いつからか社会からの信頼を失ってしまった」と、出口さんはその状況を非常に憂いていました。

そして、「自分たちでゼロから新しい生命保険会社を作りたい。僕たちが競争を仕掛けることで、業界は必ず活性化してよくなる。それが自分を育ててくれた生命保険業界への恩返しになる」と岩瀬氏に熱い想いを語りました。

そして、赤坂の雑居ビルで2人で始めた準備会社は、その後、132億円の資本金と仲間を集め、1934年以来、74年ぶりに生命保険業免許を取得した会社として2008年にスタート。2012年には上場を果たします。

「“世の中に本当に求められているものはなにか”を考えること。そして、それが本当に求められているものであれば、必要なお金や人が集まって、実際に会社が作れるんだなと、そんなことを痛感しました」(岩瀬さん)

日々のお金を意識していますか?

続いて、岩瀬さんはお金や保険について、よく訊ねられるという2つの疑問を紹介してくれました。

1:月収に対して適切な保険料や貯金ってどれくらいですか?

「お客様と話していると、よくわからないままに、たくさんの保険に入ってる方が多い印象を抱きます。例えば、銀行や証券会社を選ぶときには、『ATM 使用料はいくら?』『手数料は?』と考えますよね。でも、生命保険に加入するときに、手数料がどれくらいなのかを考えることはあまりないのではと思います。あるいは、そもそもの相場感がないんです。

そのために、たくさんの手数料を払っていたり、プロは買わないような商品を一般の方が買っていたり、あるいはプロの方が自分の買っている商品より割高な商品を一般の方には売っていたり……」(岩瀬さん)

このような現状をなんとかしたいと起業したそうですが、私たちがもっと賢くお金と付き合うために今日からできることはあるのでしょうか?

「まずは、お金に対しての意識を高めることが大切です。例えば、年収に対していくらの保険料が適切なのか考えるためには、現在いくらの保険料を払っているのか、ほかにどんな選択肢があるのかを知ることが大切です。

そして、それらのメリット・デメリットを考慮した上で、なにを選んで、なにを犠牲にするのか。そういったことを、みなさん一人ひとりがもっと意識することが重要だと思います」(岩瀬さん)

そして、もうひとつよく聞かれるという疑問はこちら。

2:保険って本当に必要ですか?

「実は、保険が必要ない方もけっこういらっしゃいます。例えば、ものすごくお金持ちの方は保険は必要ではありません。なぜなら、保険はいざというときに備えるものだからです。十分な蓄えがあるのであれば必要ありませんよね。

また、保険は時間を買うものなので、若いご夫婦にお子さんが生まれて、もし自分たちになにかあったら“子供の学費が払えないから”と保険に入った。でも、その後、貯金して2,000万円貯めたら、もう保険は必要なくなりますよね」(岩瀬さん)

保険会社の社長が、「保険は必ずしも必要ではない」とはっきり言い切ることに驚きを感じますが、ライフネットを立ち上げたときに「保険が必要ない人には無理に勧めない」ということを会社のポリシーとして決めたのだそう。

公的な医療制度や会社の福利厚生、親の支援や地域ネットワーク、そういったものも鑑みた上で、「今、必要な人が必要なだけ保険に入ればいい」と言います。

なぜお金を増やしたいのですか?

続いては、さわかみ投信の澤上龍社長から、長期投資を行うことの本当の意味について。

「みなさんは、なぜお金を増やしたいですか?」澤上さんは、参加者に問いかけます。

「こんな質問をすると、明確な夢があって“そのための資金が必要だから”という方もいらっしゃいます。ただ、多くの方は漠然と『将来が不安だから……』とおっしゃいます」(澤上さん)

確かに、一所懸命働いてさえいれば給与が上がり、そのお金を銀行に預ければ、それなりに金利がつき資産が増えていく――こんな時代は遠い昔となりました。将来、年金がもらえるかどうかも期待できないと考えている人も少なくないと思います。

同社の創業者である澤上篤人さん(現・取締役会長)は、「これからの時代において、資産運用は富裕層だけのものではなくなり、一般の方々にも必要になるだろう」という先見の明を持って、1996年にさわかみ投信を立ち上げました。

そして今、資産運用は、私たちのお金の不安を解消するひとつの方法として認識されています。

長期投資を通じて社会を作る

ただ、ここで澤上さんは「投資を違う側面からも考えてみてほしい」と話します。

「投資と聞くと私たちは、『自分の財産をどう増やすのか』ということだけを考えがちですが、投資するということは、投資される側が常に存在します。投資する側と投資される側がどんな関係を築いていくのか。

投資で自分が“稼ぐ”ということだけではなく、私たちは投資によって、その企業を応援することができるのです。もしかしたら大きく育つまでには時間がかかるかもしれないけれど、すばらしい企業をじっくりと応援して社会全体を豊かにしましょう、それが私たちがいう“長期投資“です。

そして、その成長した企業が提供するサービスを受け、その企業のお陰でより豊かになった社会で生活するのはみなさんです。投資を通じて、企業を通じて、私たちはよりよい社会を作ることができるのです。これが長期投資のリターンだと思っています」(澤上さん)

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