はじめに
あなたは日本経済をどうしたいですか?
セミナー後半では、参加者からの多様な質問に2人が答えました。
Q:日本経済はこれからどうなりますか? プロフェッショナルな視点から教えてください。
澤上: ご期待に添える回答ではないかもしれませんが、私は日本経済がどうなるかはみなさん次第だと思っています。みなさんは日本経済をどうしたいですか? 傍観者になると評論するしかない。好きなことが言えます。でも、みなさんがどんな経済にしたいか? どう行動したいか? こちらの方が大事だと思うんです。
私は決してこれからの日本経済に対して楽観主義ではないです。国内外、さまざまな外的要因もあります。ですが、先のことはわからないんですよね。自分たちがどんな経済を作りたいのか。そして、私たちは投資会社ですので、投資した企業がどう成長していくのか。これを大事にしています。
岩瀬: 去年、日銀がマイナス金利を導入したときになにが起こったのかを思い出してください。金融緩和による株の上昇を期待していたと思うのですが、直後はアメリカなど世界の動きによって真逆の動きをし、株価は下落し、円高になりました。
このとき、改めて思ったのは、経済がグローバルにつながり過ぎていて、一国の有様の予測がつかないということです。
今年のキーワードは「不確実性」だと思っています。昨年は、英国のEU 離脱に始まり、トランプ氏の当選など我々が想像もしなかったようなことが起きた。今年も、経済だけではなく、地政学的なことも含めて予想不可能なことがまだまだ起こるのではと思っています。
Q:日本では、若い人が革新的なことをしようとすると、既得権のある人たちが潰そうとすることが多いと思います。強い想いを持ち続けるためのヒントがあれば教えてください。
澤上: 私の父で創業者である澤上篤人は「お金持ちじゃなく、一般の方にも資金運用が絶対必要になるんだ」との想いで、さわかみ投信を立ち上げました。金融機関の後ろ盾もなく、大蔵省(現・金融庁)も信託銀行もすべてが最初はとりあってくれなかった。そんな逆風のなかでも、立ち上げた以上は前に進むしかない。絶対に後ろを見ないで、どんな抵抗勢力も全部倒していった。私はそんな狂ったように進む人が目の前にいたことに大きく影響を受けています。
もうひとつ大事なのは、大きな理念を持つこと。これがないと途中で折れてしまいがちです。「なぜやりたいのか」という確証を持ったら、失敗を恐れずに前に進むことです。それを成したときに、みんなの笑顔や豊かさにつながると思えば、やり続けられると思います。
岩瀬: 私は、それまでの常識をひっくり返すようなものは、完全に異端なものからではなく、意外と正統派のなかから出てくると思っています。
例えば、生命保険業界は金融業界のなかでも特に規制が厳しく、伝統ある会社が多い。当社の場合、出口が古くからこの業界にいるので、ここでのルールをよく知っていて、若い自分と組んで創業しました。そういった“大人の流儀”を知ってる人たちと若者がペアを組んで、うまくベテランの方々を巻き込みながら、仕掛けていくのがいいのではと思います。
Q:お二人はお金とどのように付き合っていますか?
岩瀬: いろいろな方を見ていて思うのは、稼ぐよりも賢く使う方が難しいということです。「よく生きること」「豊かに生きること」はお金を稼ぐよりずっと難しいということなんだと思います。
大金持ちではないかもしれないけれど、とても豊かに楽しく生きてる友人がいます。お金は手段に過ぎないということです。その先にある、自分がどう生きたいのか、自分にとっての豊かさとかはなにかを見つけた人たちが、一番、楽しそうにしているなと感じています。
私自身は数年前から「やりたいことは先延ばししないでさっさとやろう」と決めました。マラソンをはじめたり、ずっと行きたかった南アフリカに行ってみたり、ダイエットアプリを使うなど……ちょっとしたことですが、好奇心を持って、今までやっていなかったことをやってみようと思っています。
お金とどう使うかということよりも、まずは自分の生き方を見つけていくことが一番大切だと思っています。
澤上: 私は、お金を使うことにはかなりこだわりを持っています。
一例を挙げると、寄付は投資よりもむずかしいと思っています。投資よりも責任が求められる。よくわからないまま寄付をして、翌年は自分の都合で寄付しないとなると、せっかく根づいてきた活動を遮断してしまう可能性があります。例えば、社会問題を解決するための団体、その活動を生かしたり殺したりを寄付者ができてしまう危険性があると思うのです。
そのため、自分が出したお金にどう働いてもらうか、ということを運用以外にもかなり考えています。その先にあるものが成就してほしいと、しっかり継続して寄付するならいいのですが、軽い気持ちではしない。消費でも、お金を使うときはけっこうガチガチに先のことを考えます。
Q:自分たちの商品を通じて、これからの日本をどのような社会にしていきたいですか?
岩瀬: 私たちのような小さな会社ができることは本当に微々たることだと思っています。ただ、時折、我々がやったことが波及して、他の企業が追随するようになると、世の中が大きく動くことがあるんだ、と。私たちが動くことで、社会が少しでも前に進むきかっけになればと思っています。
澤上: 私たちは、一般生活者の方の財産形成のお手伝いがしたいんですよね。投資によって、「将来、不安だな」という思いがもし解消できれば、自分の忘れかけていた夢に挑戦したり、周りにいる方を支援したり、世の中に目を配る余裕ができたりします。
やっぱりお金って大事ですよね。長期投資を通じて、みなさんが経済的な自立を果たして、心の変化も起こってくると、もっと前向きでおもしろい社会にできると思っています。
(文:編集部 樫本倫子)