はじめに
免税事業者のままで取引継続してもらえるのか、バランスを見極めて
益税をあきらめざるを得ない状況で、免税事業者のままでいる方が、消費税の計算や申告・納税の手間はかかりませんが、ただ、適格請求書発行事業者でないこと自体が「信用がない」という心証が世間に広がると、それはそれで取引継続に影響も出てくるかもしれません。
免税事業者のままでいるか、課税事業者に切り替えるかは、取引を継続してもらえるのか、今まで通り消費税を上乗せして請求できるのか、仕入税額控除を取れなくなる分の事実上の値引きなどを要求されるのかなどを考慮した上で、消費税納税にかかる手間と取引先との信頼関係とのバランスを見極めることが大切でしょう。
すべての売上先が、仕入税額控除は気にせずに従来通り変わらず取引するとなれば、免税事業者のままでも問題ありませが、それは恵まれた環境に限られそうです。なお、上述の通り、売上先がすべて個人で、事業者向けの売上がない免税事業者は、免税事業者のままで問題はないと思われます。
救済措置はあるのか?今後の世論の動向に注目
このようにインボイス制度の導入は、免税事業者にとっては収入に直結することになります。
導入はまだ先ですが、免税事業者は必然的に中小・零細事業者になりますので、その影響は彼らの生活にも及ぶことが予想されます。
嘆願書が多く集まれば、免税事業者であっても適格請求書発行事業者になれるといった救済措置も考えられますが、そもそもインボイス制度の導入は、消費税率10%となり、益税の規模がますます大きくなってくるので、それを財源として確保しようという政府の意図が感じられます。
平成28年度の税制改正大綱では「軽減税率制度の円滑な運用及び適正な課税の確保の観点から、中小・小規模事業者の経営の高度化を促進しつつ、軽減税率制度の導入後3年以内を目途に、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性、軽減税率制度導入による簡易課税制度への影響、経過措置の適用状況などを検証し、必要と認められるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他必要な措置を講ずる」と記されています。
「適正な課税の確保の観点」というのが、まさに益税をなくすという意図と理解できます。
一方で、インボイス制度は、上述の通り、免税事業者の経営悪化に影響を与えると予想されるため、2021年までを目処に、事業者の準備状況や事業者取引への影響の可能性などを検証し、必要な場合には一定の措置を講ずることとされています。
このようにインボイス制度はまだ導入まで期間はあるものの、制度導入後は免税事業者にとって厳しい制度にはなりそうです。インボイス制度を予定通り導入するべきかどうか、議論が活発化する可能性があります。今後の動向などを踏まえながら対処を考えていく必要があります。